【最終回】「神様」が描き切った受難と救済:手塚治虫『きりひと讃歌』
2021年1月30日

手塚治虫『きりひと讃歌』は「モンモウ病」という架空の奇病を巡るミステリーだが……
「一番のお気に入りの手塚作品はどれか」
マンガ好きならこんな話題で盛り上がったことがあるだろう。
『ブラック・ジャック』『火の鳥』『ブッダ』『どろろ』『奇子』『三つ目がとおる』『シュマリ』『ばるぼら』『アドルフに告ぐ』――。
今、本棚に並んでいる作品をざっと挙げただけでも、どれを選ぶか迷う。短編集や『人間ども集まれ!』といった異色作も捨てがたい。少し上の世代なら、『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』、『リボンの騎士』を子ども時代の宝物だったと特別視する人もいるだろう。
改めて考えれば、たった1人のマンガ家のベスト作候補がこんなにあること自体が驚くべきことだ。
当コラムの最終回にあたって、この広大な手塚ワールドから無理やり一作を選んでご紹介したい。
取りあげるのは10代の頃から何度も読み返してきた名作『きりひと讃歌』だ。
奇病『モンモウ病』を巡るドラマ
『きりひと讃歌』と出会ったのは高校3年生のときだった。ある日、社会科教師が「手塚治虫の最高傑作は何か」という脱線をはじめ、
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