カフェで一息つくにも、QRコード認証が必要なほど徹底管理(筆者撮影)
 

 前回でも触れましたが、この3月から、生活の基盤を東京からソウルへ移しました。

 日本では変異株による新型コロナウイルスの「第4波」で東京や大阪などに緊急事態宣言が出されました。こちらでも「本当に東京オリンピックやるんですか?」という質問をたくさん受けるようになりました。

 韓国も似たような状態です。コロナ第1波では、韓国は台湾などと並んで感染拡大防止の優等生でした。文在寅(ムン・ジェイン)政権は「K防疫」を自慢していましたが、ワクチン確保で出遅れて、日本同様に批判を受けています。4月28日には新規感染者が773人になりました。韓国の人口は約5000万人ですから、人口比を考えると、新規感染者が700人台ということは日本では2000人以上に相当します。

 新型コロナに関係する市民の日常生活での規制は、日本より少し厳しいかなという感じです。僕は2月中旬に韓国に入国し、2週間の隔離を経て、3月から自由に動くことができるようになりました。

 隔離が解除された直後に、妻と一緒にソウルの中心街、光化門近くのカフェに入りました。しかし、“身元確認のできるQRコードがないと入店できない”といわれてしまいました。“日本から来たばかりで、僕の携帯にはQRコードがない”というと、“携帯の電話番号を書け”といいます。しかし、僕は隔離が明けたばかりで、まだ韓国の携帯番号を持っていませんでした。

 ソウルは、東京よりもWi-Fiがよく整備されています。Wi-Fiがあれば、電話番号がなくても、「LINE」や「カカオトーク」が日本にいる時と同じように使えるのです。それに、ずっと使える電話番号を得るには外国人登録が必要です。外国人登録証が出るには約1カ月かかるというのです。

 “一緒に生活している妻のQRコードと携帯の電話番号があるからいいではないか”と訴えますが、“お2人とも必要です”と譲りません。当惑して立ち尽くしていると、ようやく“今回は特別ですよ。奥様と連絡先は一緒ですよね”と確認し、ようやく入れてくれました。

 このカフェは特別に厳しかったようですが、身元確認のQRコードや携帯電話番号がないと、韓国では生活がとても不便です。かなり旧式の食堂でも、QRコードによる「QR出入証」が必要で、これを機械に読み取らせないと入れません。「QR出入証」がない人は携帯番号を記入させられます。

 この時は妻のQRコードで何とかしのぎましたが、4月5日からは飲食店やカフェに入る全員の身元確認が必要になり「誰々他何名」という記述だと、事業者には300万ウォン(約30万円)、利用者には10万ウォン(約1万円)の過料が課せられる可能性があるようになりました。

市民が「個人安心番号」を開発

 しかし、食堂やカフェで名前と携帯番号を書いていると、今度はその管理が問題になります。例えばカフェの、コロナ用の入店者記載帳を見れば、他人の携帯電話番号が容易く分かり、個人情報が漏れます。このため、実際には多くの人が嘘の携帯電話番号を書いているのが実情だといいます。そうなると本当にコロナ感染者が発生しても、追跡調査ができません。

 そこで市民たちが協力して「個人安心番号」というものを開発しました。これは4つの数字と2つのハングルを組み合わせた番号で、これを書いても他の人には携帯の番号は分かりません。この6ケタの番号を携帯番号ごとに1つずつ自動発給し、スマートフォンのQRチェックイン画面で確認できる、というシステムです。

 まだそれほど普及しているわけではありませんが、市民がプライバシーの自己防衛のために考え出したシステムで、この辺はIT先進国・韓国らしいところです。

 韓国では朴正熙(パク・チョンヒ)政権時代の1968年から「住民登録番号」が導入され、何をするにもこの番号の記載を求められます。国民総背番号制の1つですが、韓国の人たちはあまりに長くこの制度になじんでいるので、国民総背番号制に対する警戒心が薄いのも事実です。

 僕などは携帯電話番号ごとに番号が付与されるということに、何かITによる管理強化につながるのではという不安があるのですが、住民登録番号に慣れた韓国にはそういう感覚はあまりないようです。市民発案の「個人安心番号」にしても、そのデータを誰が握るかで、また新しい問題が起きるのではと思ってしまうのですが。

一般市民も「5人以上」の会食禁止

 日本では国民に4人以下での会食を呼びかける中、政治家の5人以上の会食などが問題になりましたが、韓国では一般市民も5人以上の会食が禁止になっています。ソウル市、京畿道、仁川市の韓国の首都圏では、昨年の12月23日から、5人以上の私的な集まりを禁止にしました。

 職場の会合、同窓会、忘年会、新年会、誕生祝いなどすべてで、5人以上の会食が禁止になっています。結婚式と葬儀だけが、例外として50人以下で認められています。これに違反すると、本人と事業主の両方に過料や行政処分が科せられます。

 僕が久しぶりに韓国に戻ったので、歓迎会をやろうと言ってくれる友人もいます。時には「こういう集まりがあるので来ない?」と誘われるのですが、「そこに僕が行くと5人になるから駄目じゃない」と言うと「そうか、駄目だね」ということもありました。

 ある時、食堂で食事をしていると、登山帰りに食事をしようと入った7人組が、さも別のグループのように3人と4人に分かれ、隣のテーブルに座り「われわれは別のグループだぞ」と言って一緒に食事をしたりしているのを見ました。庶民の知恵ですり抜けようという工夫もあるようですが、5人以上禁止のルールはかなり浸透しています。

 一方、文在寅大統領はソウル、釜山両市長選挙の与党惨敗の結果を受けて、青瓦台(大統領府)の人事異動を行いました。そこで、4月19日、青瓦台で崔宰誠(チェ・ジェソン)前政務首席秘書官ら4人とお別れの夕食会を持ちました。これがメディアで報じられると、ソウル市鍾路区庁に「5人以上の会食禁止」の規則違反であり、過料を科すべきだという内容の請願が出されました。コロナ防疫対策を担当している中央事故収拾本部は「大統領の各種会合などは公務的性格を持つもので防疫守則に違反したものではない」としましたが、苦しいところです。

 先日、韓国の統一部から、昼休みを利用して統一部職員の有志が勉強会をやっているのでそこで日朝関係の話をするように依頼を受けました。随分前に1度、この勉強会の講師を引き受けたこともあり、苦労して韓国語のPPTをつくり準備しました。予定は月曜日の12時からでしたが、なんと2時間前になって「申し訳ないけど延期してくれ」とキャンセルの通知です。週末に政府が、コロナ拡大を防ぐため「公機関職員のすべての集まりを禁止する」と決めてしまったためです。僕も2時間前のドタキャンというのは初めてでした。「延期というけど、いつまでですか?」と聞いても「さあ、相手がコロナですから」という返事でした。良くも悪くも「ダイナミック・コリア」です。

 

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