世界初の認知症治療薬「アデュカヌマブ」の功罪(後編)

7月8日、適用対象を初期患者に変更

執筆者:緑慎也2021年7月11日
世界初の治療薬を共同開発したエーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO) ©時事

(前編はこちら:綱渡りだった承認の舞台裏

 

 米食品医薬品局(FDA)は7月8日、米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「アデュヘルム(一般名アデュカヌマブ)」の添付文書の更新版を発表した。わずか1カ月前(6月7日)に承認したばかりの薬の添付文書を変更するのは異例の事態だ。

 医薬品の添付文書とは、薬の使用上の注意や副作用などを記載した文書である。医師はこれに従って患者に薬を処方する。今回変更されたのは添付文書の冒頭部分だ。何よりも重要な情報が記された箇所といっていい。

 最初はアルツハイマー病のすべてのステージの患者が適用対象だったところ、今回の更新版では「アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症の患者」とされたのだ。要するに、後期のアルツハイマー病患者、言いかえれば重症者は排除されたのである(より正確に言えば、早期の中でもプレクリニカルと呼ばれる無症状の時期も排除された)。

 元々、薬の適用対象をアルツハイマー病のすべてのステージの患者としたのには無理があった。というのもアルツハイマー病による軽度認知障害と軽度認知症患者を対象にした臨床試験しか行われていないからだ。アデュヘルムが後期アルツハイマー病患者に効くかどうかについては何のデータも存在しないのである。

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