1991年3月3日、黒人男性ロドニー・キング氏が複数の警官に暴行を受け、顔面や腕、足の骨折、眼球破裂などの重傷を負った。 ©AFP=時事

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6. ロドニー・キング暴行事件裁判と白人のパラノイア

 ロドニー・キングに暴行を加えた警官の罪を問う裁判は、陪審員により無罪の評決がくだされ、1992年4月29日のロサンゼルス暴動の直接の引き金となったと言われている。近隣の住民ジョージ・ホリデイが買ったばかりのビデオカメラでバルコニーから撮影した、無抵抗な者への一方的な暴力の様子が記録された映像がありながら、それがなぜ暴行を加えた警官の有罪を決定づける「証拠」となりえなかったのか? その映像を見るかぎり有罪が当たり前と思われる裁判において、なぜ警官は無罪となったのだろうか?

 暴行の映像は、夜間に遠くから撮られたものであり、「無抵抗な者への一方的な暴力の様子」が記録されているのは誰の目にも明らかな(はずの)ものだが、それが誰であるかは映像からは判別できないほど不鮮明なものである。しかし、警官の弁護人は、その映像の不鮮明さを盾に、特定の警官によるキングへの暴行であることは「証明」できないとして、映像の「証拠」としての価値を否定したわけではない。そうではなく、映像で暴行を受けているのはキングであり、暴行を加えているのは警官たちにほかならないが、前科があり仮釈放中で、スピード違反容疑で停車を命じられたにもかかわらず逃走し(警官たちによれば)逮捕に抵抗した、ロドニー・キングという当時25歳の大柄な黒人男性の身体こそが、警官たちにとっては脅威であり、キングが行使しかねない暴力を封じるための対抗的な暴力だと——つまり、やらなければやられていたのだから正当防衛だと——驚くべきことに主張したのである。さらに驚くべきことに陪審員はそうした主張に合理性を認め、言い換えれば、暴行の映像は「合理的な疑いを超える証明」にはなっていないとして、警官たちを無罪としたのである。

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