ジョージ・フロイド氏に対する殺人罪で禁固22年半の有罪判決を受けた元警察官のデレク・ショーヴィン ©AFP=時事/Hennepin County Jail

*第3回はこちら

8. フロイド殺害映像の複数性

 ジョージ・フロイド殺害の罪を問う元警察官デレク・ショーヴィンの裁判の流れをまとめ、解説する2021年6月25日のニューヨーク・タイムズの記事は、22年半の実刑判決を「画期的」と評価する。アメリカにおいて職務中の警官が殺人の罪で裁かれるのはそもそも稀有であり、とりわけ犠牲者が黒人である場合はきわめて稀有であったためである[1]

 ショーヴィンの実刑判決は、もちろん、フロイド殺害以後のBLM運動の急速な高まりや、BLM運動に批判的なトランプ政権から共感的なバイデン政権への移行など、さまざまな政治・社会情勢の変化が少なからず影響していると考えられる。つまり、ダーネラ・フレイジャーが撮影した動画をはじめとする視覚的証拠だけでショーヴィンの有罪が決定したとは言い切れないのだが、そうだとしてもフロイドの殺害をとらえた映像がこれまでの警官による黒人への暴行・殺害映像とは異なっていたのも事実である。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。