スサノヲ篇(2)
スサノヲの文明論

執筆者:関裕二2021年9月26日
文明論を語ったスサノヲ(月岡芳年『日本略史 素戔嗚尊』)

 前回は、スサノヲが二面性をもっていること、それは神の中の神だったから、という話をした。神そのものが鬼でもあり、『日本書紀』の中でスサノヲだけが、神本来の姿を見せていたのだ。ただし、『日本書紀』はスサノヲに簑笠を着せて、蔑まれる鬼に蹴落とした。ここに、大きな謎が隠されている。

「浮く宝」が大切と唱えたスサノヲ

 今回の話は、スサノヲの「反文明宣言」だ。大陸や半島の先進文明を目の当たりにして、危機感を抱いたようなのだ。天上界(高天原)を追放されたスサノヲが、まず朝鮮半島の新羅に舞い下り、そのあと日本列島にやってきた時の話だ。

 スサノヲは、

「韓国[からくに](朝鮮半島)」に金属の宝があるが、私の子の治める日本には浮く宝がないといけない」

 と語っている。「浮く宝」とは、船や建材用、あるいは燃料用の木材を意味している。そしてスサノヲの子たちは、このあと日本中に植林をしたという。スサノヲの戦略の意味はどこにあったのだろう。なぜ木材の必要性をことさら強調したのだろう。

 朝鮮半島や中国では、早くから金属文化が発展し、冶金が盛んに行われていた。そのために、大量の燃料を必要とし、森林は荒れ果てていた。だからこそスサノヲは、日本の強みを「広大な森林と湿潤な気候」と、気づいていたのだろう。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。