「日本製鉄vs.宝山鋼鉄・トヨタ」訴訟の隠れた意味を「対中封じ込め」で読み解く

【特別企画】激動経済:「米中産業冷戦」の時代 (第4回)

執筆者:後藤康浩2021年10月19日
EVやハイブリッド車のモーターのコアに使われる無方向性電磁鋼板は最重要の戦略商品(写真:日本製鉄提供) ⓒ時事

 日本製鉄が中国・宝山鋼鉄とトヨタ自動車の2社を電気自動車(EV)などのモーターに使う無方向性電磁鋼板の特許侵害で東京地裁に提訴した。「日本対中国」「鉄鋼最大手と自動車最大手」の二重対立の複雑な衝突にみえるが、米中産業冷戦の文脈で読めば構造は意外に単純だ。中国メーカーの高付加価値鋼材とEVの日本市場への進出を食い止めるための日本産業界挙げての知財戦略といえるからだ。日鉄が宝山の電磁鋼板とそれを使った中国製EVの対日輸出を差し止めることはトヨタはじめ日本の自動車業界の望むところであり、トヨタは国内販売のEVに日鉄の電磁鋼板さえ使えば販売差し止めの影響はない。それ以上に重要なのは、素材、キーデバイスなど産業の上流で、中国を抑え込もうとする日米欧の戦略の高度化である。

宝山に逆転された日鉄、攻勢をかける中国EV

 宝山鋼鉄は2016年に武漢鋼鉄と経営統合し、今は粗鋼生産量世界トップの宝武鋼鉄集団に属する。宝山鋼鉄は日鉄の前身である新日本製鐵が全面的な技術支援で中国最初の近代的な大型高炉、一貫生産の臨海型製鉄所として誕生した。両社の歴史的関係からすれば、今回の特許紛争は日中産業協力の歴史の汚点になりかねない。だが、かつて技術はもちろん規模の面でも圧倒的な日鉄優位だった両社の関係は逆転している。粗鋼生産量では2010年に宝山が新日鐵を抜き、その後の経営統合で規模を拡大した宝山の親会社宝武集団の2020年の粗鋼生産量は1億1529万トンと日鉄の2.8倍で、日本全体をも上回る。利益水準でも宝山が日鉄を上回り、当然ながら研究開発の面でも日鉄は急激に追い上げられている。

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