アメリカ保守主義が陥った機能不全:その概観とささやかな提案(下)

執筆者:ジョージ・H・ナッシュ(George H. Nash)2022年5月31日
バージニア州シャーロッツビルで公園から撤去された南軍のロバート・E・リー将軍の銅像(2021年7月10日) (C)AFP=時事

「トランプなきトランピズム」の模索

 そうしたことがあって、新たな保守主義の形成に向け決然として模索が始まった。それは「トランプなきトランピズム」とでも呼ぶべきものである。少し前まで、レーガン時代やその残照を浴びた保守派の代表的な思想家たちは、自分たちの哲学を当然のごとく、小さな政府、減税、自由貿易、起業家精神と結びつけていた。しかし、現時点では、右派内部からこれらの原則を時代遅れで非保守的なドグマだとして批判するポピュリスト・ナショナリストが増えている。レーガン型ポピュリズムのような政府の役割を否定するレトリックを捨て、自分たちの政策実現のために政府権力を臆面もなく、精力的に行使することを訴えているのである。こうした右派造反者の中には、グローバリズムと国境を超えた進歩的エリートを敵視し、国内の経済的・社会的崩壊に当惑し、旧世界である欧州のナショナリストや社会保守主義者に啓発や知的支柱を求めている者もいる。

 実際、過去10年間の米国における最も顕著な知的潮流のひとつは、その保守主義の欧州化、より正確に言えば、大陸欧州化の進展であった。もちろん、欧州に対する関心は、米国の保守知識人にとって新しいものではない。ラッセル・カークの『保守主義の精神(The Conservative Mind)』(1953年)、『米国の秩序の淵源(The Roots of American Order)』(1974年)といった大著や、エドマンド・バークを英米保守主義の始祖と称えるカークの言葉がすぐに思いつくだろう。また、(いずれも欧州生まれである)フリードリヒ・ハイエクやヴィルヘルム・レプケ、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスが、1945年以降に発展した保守派連合の中の古典的リベラル派とも呼ばれるリバタリアン派に思想的に貢献したことも、思い起こされる。政治哲学の分野では、(ナチスの迫害を逃れ)米国に移住してきた学者であるレオ・シュトラウスやエリック・フェーゲリンとその弟子たちが、プラトンやアリストテレスに遡る欧州の思想伝統を米国の保守派に思い起こさせるうえで多くの貢献をした。

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