【ブックハンティング】20年間、アメリカはアフガニスタンで何をしていたのか――真摯な調査報道が伝える真実

クレイグ・ウィットロック(河野純治訳)『アフガニスタン・ペーパーズ』(岩波書店)

執筆者:瀬谷ルミ子2022年9月17日
 

 アメリカ史上最長となったアフガニスタンでの戦争。20年間の月日と巨額の資金を費やし多くの人命を犠牲にしたのち、タリバンの侵攻とともにアフガニスタン政府はあっけなく崩壊した。

 本書は、アメリカのアフガニスタンでの戦争と国づくりのどこが間違っていたのか、歴代大統領のジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、ドナルド・トランプとその政権がいかに真実を国民から隠蔽し続けたかを、戦争に直接かかわった1000人以上の証言から解明する調査報道だ。ワシントン・ポストが情報公開法に基づく複数の訴訟により公開にこぎつけたこれらの記録は、本来は表に出ないことが想定されていた。それだけに、米国高官や司令官の告白は生々しく率直だ。

 明確な戦略とゴールがないなか、最前線で命を落とし続ける米兵とアフガニスタンの人々。無秩序な援助により汚職文化がタリバン以上の脅威になっていくさま。現地の実情や文化を踏まえず迷走する国軍再建や麻薬対策など、エピソードはその光景が思い浮かぶほど具体的で、なかにはジョークにしかならないようなものもある。しかし、読み進めていくうちに、これらすべてが積み重なって、米軍の撤退に伴うタリバン復活は起こるべくして起きたことを肌で感じることになる。オバマ政権に副大統領時代から関わってきたジョー・バイデン大統領が、最終的に米軍のアフガニスタン撤退を実行し、その後のウクライナ危機に対して今の距離感を保っている状況は、アフガニスタンでの経験と無関係ではないだろう。

 アフガニスタンで20年間に起きた全てが失敗だったわけでもなく、女性の権利や教育の拡充により若い世代が育ったことなど、本書のそもそもの目的ではないとして言及されていないことも多い。「ではアメリカはどうすればよかったのか?」という問いへの回答も体系的に提示されていない。しかし、随所に読み手自身が「もし、こうしていたら?」と考える場面はあるだろう。

 アメリカの同盟国でもあり、アフガニスタンでの戦争と国づくりに大きな関与をしてきた日本にとっても、本書の内容は他人事ではない。この戦争初期に私は日本の外交官としてアフガニスタンの軍閥の武装解除に携わっていたが、当時アフガニスタン戦争の行く末と同じくらい危機感を覚えたのは、日本の政治的な意思決定、情報収集、民軍合わせたキャパシティの不足だ。本書で明らかになっている迷走したアメリカに、日本はあらゆる面で頼らざるを得なかった。昨年のアフガニスタン危機における日本関係者の救出という短期的な危機対応でも、他国に状況判断含めゆだねざるを得ない状況が露呈する結果となった。

 アメリカにとっての希望は、アメリカ政府が「学ばれた教訓」と名付けたプロジェクトで独自にアフガニスタン戦争の検証を試みていたことだ。さらに、ジャーナリズムの神髄ともいえる本書を通じ20年間の記録が世に出たことで、戦争や脅威、他国の国づくりにどのように対峙していくか、教訓に基づいて考える機会を得ることができた点だ。政府が自分たちに都合がよい情報を流す状況に対し、日本の市民やマスメディアが気づき、かつ正しい方向に向かうために行動できるか。アメリカの対応を善か悪かの二元論で片づけたり、その失敗を観客として眺めて批評するだけでなく、私たち自身が戦争や危機の現実に目を向け、何が起こりうるかを知ったうえで判断する一歩を踏み出すために、必読の記録だ。

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