現行のフランス「反カルト(セクト)法」(フランス政府HP「Légifrance」より)

 安倍晋三元首相銃撃事件をきっかけに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会[世界基督教統一神霊協会])のような「カルト」を規制すべし、という議論が起きている。その中で、厳しい対策を講じている国として、フランスがよく例に出される。

 しかし残念ながら、誤って紹介されていることが多い。カルト対策は宗教対策だ、という誤解である。たとえば、フランスの「反カルト法」は反宗教法であるとか、政府が宗教団体を監視する特別な機関を持っている、といった言説だ。

神学的概念と社会学的概念

 まず、日本で言う「カルト」は、フランスでは「セクト」という言葉になる。

 日本で「セクト」というと新左翼など政治的な文脈で使われることがほとんどだが、フランス語にはその含意はない。本稿では「セクト」という言葉が重要なのでこちらを主に用いるが、混乱のないようあらかじめご注意を願いたい。

 もともと「セクト」は、「新しい、奇妙な、少数の宗教・宗派」という意味だった。また、フランス語の日本観光ガイドブックで比叡山延暦寺を説明する際に「セクト・テンダイ」と表現するように、単に「宗派」という意味でも使われていた。

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