※小泉悠氏・小谷賢氏の対談に編集・再構成を加えてあります。

 

元KGBの自尊心をくすぐる「チェーカー」

小泉 ロシアの情報機関の歴史を振り返ると、ウラジーミル・レーニンがつくった秘密警察組織「チェーカー(反革命・サボタージュ取締り全ロシア非常委員会)」が紆余曲折を経て内務人民委員部(NKVD)、さらにはKGBになり、現在は連邦保安庁(FSB)や対外情報庁(SVR)、ロシア連邦警護庁(FSO)といった機関に分かれていますが、彼らは自分たちのことを「チェーカー」「チェキスト」と呼びます。つまり、自分たちはレーニンのチェーカーに端を発する組織のコミュニティの人間なのだという意識が強い。

 アメリカのあるロシア専門家が書いた話では、パーティで「チェーカーに所属するものは起立!」と言ったら、プーチンをはじめとする何人かが立ち上がったそうです。KGBがなくなっても、祖国を守る任務を帯びている特殊機関のエリートの一員なのだという意識がある。

小谷 「シロヴィキ」より「チェーカー」と言った方が、士気が上がるのでしょうか。

小泉 「シロヴィキ」はマスコミ用語なんですよ。ロシアの閣僚には、プーチンが直接任命する外務・防衛・内務・FSBなどの長官・大臣と、首相の提案に従ってプーチンが任命するその他の大臣とがおり、外交・安保・治安を司る人々は特別であるという意識が本人たちにも外部の人にもあるので、マスコミはプーチンが直接任命する人たちのことを「シロヴィキ(力の人たち)」と呼んだ。

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