三権広場の大統領府前でデモを行う人々(C)AFP=時事

 

 ブラジルの首都ブラジリアで2023年1月8日、ジャイール・ボルソナーロ前大統領が敗れた昨年の大統領選に「不正があった」と訴えるデモ参加者ら約4000人の一部が暴徒化し、大統領府、連邦議会、最高裁判所に侵入した。今回の事件は2021年1月に米国でトランプ支持者の一部が起こした連邦議会の襲撃事件を彷彿とさせるものだったこともあり、世界中に波紋を呼んだ。しかし、今回の事件を米国の状況やトランプ氏との共通点のみに基づいて解釈することは誤解を招いてしまう。本稿ではひとまず、事件の背景と経緯、事件の影響と今後を整理する。

事件当日に何が起きたのか

 当日に至る経緯を簡単に振りかえっておきたい。

 事件が発生する前日の7日に抗議デモ参加者を乗せた少なくとも80台のバスが、ブラジリアの陸軍総司令部の前に設営された野営地に到着した。野営地では、選挙結果を否定する市民たちが選挙是正のために軍の介入を求め、繰り返しデモを行っていた。

 動きを察知したフラヴィオ・ジーノ法務・公安相は、同日に国家治安部隊の出動許可とともに、連邦議会・最高裁・大統領府などのビル群が立ち並ぶ広大な広場「エスプラナーダ」の封鎖を連邦区知事に要請したが、同知事はこの要請に応えなかったため、連邦区軍警察の配備が不十分なまま、翌日に抗議デモが開始された[1]

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