米欧対立の火種「インフレ抑制法」が「新たな合意」を導く可能性に注目せよ

執筆者:ブルース・ストークス(Bruce Stokes)2023年8月1日
バイデン政権から見れば“良い投資”だが……[インフレ抑制法に基づく200億ドルの投資について語ったカマラ・ハリス米副大統領=2023年7月14日、メリーランド州ボルチモアのコピン州立大学](C)AFP=時事

 2022年8月、アメリカで「インフレ抑制法(IRA)」が成立した。これは1930年代の大恐慌以来、最も包括的な産業政策で、その目的は、長年の懸案だった再生可能エネルギーの導入拡大をテコに、国内製造業を復活させることだ。

 インフレ抑制法の成立によって、ヨーロッパや日本をはじめ各国で懸念が広がっている。アメリカが、長年力を入れてきた市場経済や自由貿易を放棄するのではないかとの不安を招いているのだ。

 ただ、世界経済におけるアメリカの一国主義こそが、EU(欧州連合)や、程度の差はあれ日本との無数の政策対話を生んできたともいえる。こうした政策対話を行うことで、価値観を同じくする国・地域の貿易や投資に関する新たなルール作りは、過去30年間WTO(世界貿易機関)を通じて行ってきたよりもうまくいくかもしれない。

際立つ貿易技術評議会(TTC)の協議内容

 インフレ抑制法には、北米で組み立てられた電気自動車(EV)購入の際の税控除や、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車(PHEV)、水素燃料電池車などをアメリカ国内で生産する企業への補助金、また太陽光発電や風力発電の設備、蓄電池の部品や重要鉱物の国内製造を奨励する生産税控除などが含まれる。連邦政府が今後10年で投じる歳出総額は4330億ドル(約60兆円)、米金融大手ゴールドマン・サックスの試算では総額1兆2000億ドル(約170兆円)規模にのぼるともいわれる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。