「緑の重商主義」が世界を覆う:日本は20兆円「GX経済移行債」で何を目指すか

執筆者:滝田洋一 2023年3月5日

官民が目標とする投資額は今後10年間で150兆円余り[GX実行会議で発言する岸田首相(左から2人目)=2022年12月22日、首相官邸](C)時事

 米国と欧州がいま地球温暖化対策を大義名分に激しいつばぜり合いを演じている。日本の岸田文雄政権がGX(グリーントランスフォーメーション)と呼ぶ脱炭素戦略を、経済政策の大黒柱に位置付けた。脱炭素に向けたルール作りや技術開発で自らの産業競争力を強化する。グリーンの衣をまとった産業囲い込み、いわば緑の重商主義が世界を覆っている。

 岸田政権は2月10日に「GX実現に向けた基本方針」として閣議決定した。2050年に温暖化ガス排出の実質ゼロという国際公約を実現するために、官民が目標とする投資額は今後10年間で150兆円余り。国内の投資が少ないとされる日本にとって150兆円は相当な規模であるが、民間企業だけでは不確実性の高い投資の実行は難しい。

産業政策としての米「インフレ抑制法」

 脱炭素で新技術の産業化に成功すれば、世界中の需要を取り込めるカネのなる木となる。ただそうは言っても、事業を短期的に採算に乗せるのは難しい。そこで脱炭素に向けた「死の谷」を飛び越えるために、政府の出番となる。主要国ではまず欧州が温暖化対策を看板に緑の産業政策で先鞭をつけ、米国はバイデン政権が一気に巻き返しに出た。

 米国では昨年8月にインフレ抑制法が成立した。折からの物価高騰にかこつけてインフレ対策と銘打っているが、この法律の目玉は気候変動対策などに対する10年間で3690億ドル(約50兆円)の財政支援だ。再生可能エネルギーを導入すれば、税金をオマケする「税額控除」を広範に採用している。JETROの資料を元に一例を挙げよう。

 太陽光パネル、風力タービン、バッテリーなどの生産投資。二酸化炭素回収・貯留(CCS)、直接空気回収(DAC)、石油増産回収(EOR)の施設運営。家庭での太陽光発電設備の設置。ヒートポンプなど省エネ機器の購入。原子力発電、持続可能な航空燃料(SAF)、クリーン水素などの燃料エネルギー製造……。これらの生産、投資、購入、運営を後押しするのだ。

 極め付きは電気自動車(EV)を購入する際の税額控除だ。EVの中古車だと最大4000ドル、新車なら最大7500ドルの税額控除が受けられる。中古車で約54万円、新車なら約101万円も税金が安くなるなら、この際EVを購入してみようか。クルマ社会の米国だから、そう思う消費者も多いはずだ。環境に優しいバイデン政権、と話が終わればいうことはない。

 そうは問屋が卸さない。税額控除の対象となる車種は、米国、カナダ、メキシコの北米3カ国で最終組み立てされたものに限るというのだ。バッテリー式電気自動車(BEV)を例に取ると、ゼネラルモーターズ(GM)「ボルト」やフォード「マックE」、テスラ「モデル3」「モデルY」など米国車のオンパレードで、外国車は日産「リーフ」などに限られる。

本音を吐露したフォン・デア・ライエン欧州委員長

 さっそく海外から猛反発が起きた。中国? ……

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執筆者プロフィール
滝田洋一(たきたよういち) 1957年千葉県生れ。日本経済新聞社特任編集委員。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」解説キャスター。慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了後、1981年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ支局、経済部編集委員、米州総局編集委員などを経て現職。リーマン・ショックに伴う世界金融危機の報道で2008年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。複雑な世界経済、金融マーケットを平易な言葉で分かりやすく解説・分析、大胆な予想も。近著に『世界経済大乱』『世界経済 チキンゲームの罠』『コロナクライシス』など。
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