トランプ「米国本位」関税が狙う「スミソニアン2.0」の大調整

執筆者:滝田洋一 2025年4月6日
エリア: 北米
米国の関税の実効税率は22.44%まで跳ね上がったと試算される[2025年4月3日、アメリカ・ワシントンDC](C)Andrew Harnik / GETTY IMAGES NORTH AMERICA /AFP=時事
「相互」と称するものの「米国本位」な関税で、トランプ政権が追求するのはスミソニアン合意にも比肩しうる経済・通貨・貿易体制の大調整だ。冷戦下で体力の低下した米国の負担を日欧がドル切り下げで肩代わりしたのが1971年、2025年版の「2.0」は手っ取り早く関税を手段にした。日本企業に輸出コストを負担する動きが広がるかもしれないが、それはアメリカに関税への麻薬的依存を一層深めさせる可能性も。

 米国解放の日。ドナルド・トランプ大統領が全世界に打ち出した「相互関税」に、各国政治家、行政担当者、企業経営者そして市場参加者は蜂の巣をつついた大騒ぎになっている。予想をはるかに上回る高関税。4月2日のホワイトハウス・ローズガーデンでの発表が4月3日のマーケットを直撃した。

出所:The White HouseのXへの投稿より 拡大画像表示

 相互関税は相手国・地域が米国にかけている関税を、米国もかけ返すということだ。トランプ政権の発表によれば、日本は米国に対して、非関税障壁も含めて46%の関税をかけている。従って日本に対してかけ返す関税は、税率を約半分に割り引いて24%。倍返しはなく半分返しなので「温情だ」というのだが、悪い冗談はやめてくれ。24%という想定外の高関税は石破茂政権を直撃した。「除外を求める」と繰り返すが、とうてい埒が明かない。

「貿易赤字÷輸入額=相互関税率」の理屈を少し詳しく

 46%はどこかで聞いた数字だ。「くっきりとした姿が浮かんできたわけではない。おぼろげながら浮かんできたんです。46%という数字が」。2021年4月23日にニュース番組に出演した小泉進次郎環境相(当時)は、30年度の温室効果ガス排出を13年度比で46%削減する政府目標について根拠を問われ、「おぼろげながら」と答えた。

 今回の46%。実際の日本の平均関税率は3.7%と、米国の3.3%と並ぶ低水準。たとえ非関税障壁を加えても46%などというのは無茶苦茶だという声が木霊した。ならばトランプ政権は「おぼろげながら浮かんできた」数字を各国・地域に吹っ掛けたのだろうか。そうではない。「くっきりとした」シンプルな計算式を、米通商代表部(USTR)が示している。

 USTRのHPから米国側の「相互関税の計算式(Reciprocal Tariff Calculations)」を確認しておこう。相互関税は、「米国と各貿易相手国間の二国間貿易赤字を均衡させるために必要な関税率」として計算される。その「二国間貿易収支がゼロになる相互関税」は次の①式で表される。

二国間貿易収支がゼロになる相互関税

相互関税率=(輸出-輸入)/ ( ε × φ×輸入)…①

εは輸入価格に対する輸入の弾力性

φは関税から輸入価格への転嫁

実証研究からεは4、φは0.25

なので

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カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
滝田洋一(たきたよういち) 名古屋外国語大学特任教授 1957年千葉県生れ。慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了後、1981年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ支局、経済部編集委員、米州総局編集委員、特任編集員などを歴任後、2024年4月より現職。リーマン・ショックに伴う世界金融危機の報道で2008年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」解説キャスターも務めた。複雑な世界経済、金融マーケットを平易な言葉で分かりやすく解説・分析、大胆な予想も。近著に『世界経済大乱』『世界経済 チキンゲームの罠』『コロナクライシス』など。
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