ドゥテルテ大統領は「バンサモロ自治政府はISIS系過激派組織に対する砦」との発言を繰り返した[ムラド・イブラヒムMILF議長に署名入りのバンサモロ組織法を手渡す大統領=2018年8月6日、フィリピン・マニラのマラカニアン宮殿](C)AFP=時事

 強権的な政治手法に対し国際社会から批判の声が高かったロドリゴ・ドゥテルテ大統領のもとで、ミンダナオ和平は意外にも進展をみせることとなった。2018年7月に和平合意が法制化され、翌2019年1月・2月の住民投票を経て、同年3月に新たな「バンサモロ1・ムスリムミンダナオ自治地域(BARMM)」が正式に創設された。また、それにともない、2022年の新自治政府設立まで同地域を統治するバンサモロ暫定自治政府(BTA。以下、暫定政府)が設立された(コロナ禍の影響などで移行プロセスに遅れが生じ、暫定統治期間は2025年6月末までに延長された)。和平の産物として、現在、暫定政府を主導しているのはモロ・イスラーム解放戦線(MILF)である。

 だが、その道のりは決して平坦ではなかった。本稿では、ドゥテルテ政権下での和平プロセスの動向とともに、筆者が一実務家として従事した平和構築の現場での地道な支援が思わぬところで新たに展開するという側面を浮かび上がらせる。そのことによって、継ぎ目のない支援の重要な局面で果たした第三者の役割とレバレッジ効果について指摘し、今後の平和構築活動のインプリケーションを引き出す。

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