2022年3月26日、スラヴチチの反ロ集会に参加したスタニスラウ・シェクステロ(右)と妻(同氏提供)

 チェルノブイリ原発に勤務する技術者や科学者、警備隊員らが暮らすスラヴチチの街に、戦争の影は一見薄い。2022年2月から3月にかけてロシア軍に占領されたウクライナ北部では、攻撃を受けて損傷した集合住宅、焼け焦げた家屋、破壊されたインフラがまだあちこちで目立つが、この街にはほとんど見られない。実際、街中での死者は1人もいないという。ブチャでの虐殺に代表されるように、首都キーウ周辺からウクライナ北部にかけての相当数の都市や町村では、多かれ少なかれ犠牲者が出ているだけに、希な例だといえる。

 街はどのようにして惨事を免れたのだろうか。

「気分はレニングラード」

 ウクライナに2022年2月24日、一斉侵攻したロシア軍のうち、首都キーウ攻略を目指した部隊は、主に2つのルートに沿って南下した。1つはベラルーシ領内からで、チェルノブイリ原発を占領して勤務者らを拘束するとともに、さらに南下してドニプロ川右岸に広く展開した一群である。その一部は北西方向から首都に入ろうとして、イルピンに陣取ったウクライナ軍に行く手を阻まれ、その手前のブチャに滞留して虐殺を引き起こした。もう1つは、ロシア領内からチェルニヒウ州に侵攻してドニプロ川左岸に展開した一群である。北部の中心都市チェルニヒウを包囲するとともに、その一部の第6親衛戦車連隊がキーウ東郊ボロバリ近くまで進撃した。しかし、高速道路上を走行中にウクライナ側の待ち伏せに遭い、部隊は総崩れとなり、連隊長は戦死した。ドローンから撮影されたその場面はSNSを通じて世界に共有され、ロシアの作戦失敗を強く印象づけた。

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