第8回 トリックスターと天皇――山口昌男の二つの焦点
2025年1月31日

山口昌男の「トリックスター」「道化」「スケープゴート」「中心と周縁」といった人類学・記号論的タームを駆使した分析が、1970年代当時の論壇に大きなインパクトを与えた(Wikimedia Commons)
(前回はこちらから)
日本左翼の「武家体質」?
佐藤誠三郎らによる『文明としてのイエ社会』(1979年)については当時様々な書評が書かれた。なかでも最も興味深いのは関曠野『野蛮としてのイエ社会』(御茶の水書房、1987年)であろう。タイトル(『野蛮としての~』)から容易に予想が付くように、関は『文明としてのイエ社会』について、結論としては、極めて否定的なスタンスを取っている。ただし、その歴史叙述の部分、とりわけ経営体としての「イエ」が日本史の主役であるという中核的な論旨についてはほぼ無条件にその正しさを認めてみせる。戦闘集団としての武士において発達した「イエ」型組織原理が、江戸期を通じて日本社会に全面的に浸透してその支配的な原理となり、特に西洋化が進んだ明治期以降は家族よりもむしろ会社・企業にその「イエ」型組織原理が強く残った。そしてこれこそがまさに日本の資本主義が成功した秘訣だというのである。
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