
現在、トランプ米大統領の停戦調整の流れに沿って、欧州軍のウクライナ領への展開が準備されている[ロンドンで開かれた首脳会合で記念撮影に応じるウクライナのゼレンスキー大統領(前列右から2人目)と欧州主要国の首脳=2025年3月2日](C)EPA=時事
NATO東方拡大をめぐる議論において、主観の問題とは別次元で存在する混乱は、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大の歴史と、ウクライナNATO加盟問題を、同一視する議論だ。これは二つの異なる事柄を混同した錯綜した議論である。ロシアはこれまでに実際に発生したNATO東方拡大に直面していたときには、戦争を仕掛けなかった。戦争原因のレベルでロシアが問題にしているのは、あくまでもウクライナのNATO加盟の可能性である。過去のNATO東方拡大ではない。
ドンバス戦争に代表される他国領土におけるロシアの軍事介入は、直接的であれ、偽装されたものであれ、これまで基本的に旧ソ連圏でしか行われたことがない。例外は、アサド政権の要請に応じてシリア政府軍を支援してシリアで行った軍事介入と、政府軍ではないワグネル社を通じてアフリカなどで行っているロシア人の軍事作戦であろう。だがこれらはいずれも異なるパターンで行われたものだ。いずれにせよNATOとは関係がない。
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