国連ミレニアムサミット出席のため九月五日からニューヨークを訪問していた森喜朗首相は帰国前日の八日夜、市内のシェイ・スタジアムで行われた大リーグの公式戦、ニューヨーク・メッツ対フィラデルフィア・フィリーズ戦の観戦に出掛け、始球式のピッチャーを務めた。 日米両国歌演奏の後、「ジャパニーズ・プライム・ミニスター・モリ、イッツ・ユア・ピッチ!」と軽妙な場内アナウンスが響き、ホームチームのメッツの黒いユニフォームに巨体を包んだ森首相がマウンドに向かった。「来年まで首相の座は譲らない」という意気込みを込めてか、ユニフォームには首相が自ら発注した「二〇〇一」の背番号。緊張した面持ちで大きく振りかぶり、首相が投じた一球は、日本にもファンが多いメッツのピアザ捕手のミットにノーバウンドで吸い込まれた。中継のアナウンサーが「フォークボール」と形容したように、ホーム手前で失速した直球だったが、外角低めのストライク。スタンドからは割れんばかりの歓声が沸き起こった。 よほど気をよくしたのだろう。帽子を振って大観衆に応えた首相は、ネット裏の自席に移ってからも、案内役のメッツのオーナーに「メッツと契約してもいいが、日本の国民のことが心配だからやめておこう」「ピアザが打てないのは、僕の球を受けて手がしびれているせいじゃないか」などとジョークを連発。ボトル入りのビールを片手に、特大のソーセージが入ったホットドッグを二本平らげ、予定の倍の約二時間、大リーグ観戦をたっぷり楽しんだ。

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