悩める小泉首相の「テロ対策」舞台裏

執筆者:Foresight2001年10月号

 米軍等への自衛隊の支援活動を可能にするテロ対策特別措置法案の審議が、衆院テロ対策特別委員会で始まった十月十一日午後十時前、この日の仕事を終え執務室から出てきた小泉純一郎首相は、取り囲んだ記者団から「同時多発テロ事件から一カ月ですが」とコメントを求められた。「もう一カ月か。時の経つのは早いね。毎日、毎日、このテロ。テロ、テロ、テロで悩んでいるなあ」 率直な、等身大の感想だった。毎日、テロで悩んでいる――。疲れを隠せない表情でそれだけ言うと、首相は口をつぐんだ。 実際、この一カ月間、首相は同時多発テロ事件への対応に追われ続けた。事態をどう捉え、どう対応するか。自分の一挙手一投足がそのまま日本の評価につながり、反応が瞬時に世界各地から跳ね返ってくる。就任五カ月余の新米首相は否応なく自らの立場を再認識し、その責任の重さに身震いする思いで過ごしてきたに違いない。 事件発生当夜、首相は行きつけの赤坂プリンスホテルのコーヒーハウス「ポトマック」で秘書官に囲まれ、夕食を楽しんでいた。夕食の話題に上ったのは、前日、日本で初めて感染の疑いのある牛が発見された狂牛病問題と、十六日から出発する予定だった東南アジア四カ国訪問(テロ事件を受け中止)だったと言われる。気の置けない秘書官相手の夕食。首相はリラックスした様子でワイングラスを傾け、ほろ酔い気分で公邸に帰還した。

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