イスラーム主義のもう一つの勢力「サラフィスト」とは何か

池内恵
執筆者:池内恵 2011年12月29日

 アラブ世界で抑圧的な体制が崩壊して自由で競合的な政治空間が出現するとどうなるか。エジプトはその実験場のような場所になっている。公正に議会選挙を行えばイスラーム主義組織の中で群を抜いた代表格のムスリム同胞団が伸長することは当初から予想されていた。ムスリム同胞団の元々の支持層に加え、旧体制回帰を阻止しようとする層の票を加えれば、30~40%というムスリム同胞団の比例区での得票率はほぼ予想通りである。

 しかしこれに並行しての、比例区での得票が25%に及ぶ「サラフィスト(アラビア語でsalafiyun; 英語でsalafist)」の躍進は、驚きをもって迎えられた。サラフィストについては現地でもこれまで研究や報道が少なく、ましてや外部の国際社会からは得られる情報が著しく少なく、懸念を呼び覚ましている。
http://english.ahram.org.eg/NewsContent/1/0/29157/Egypt/0/Emad-ElDin-Abdel-Ghafour,-chairman-of-the-Salafist.aspx

 サラフィストは復古主義や伝統主義の一種といえる。「サラフ」とは「祖先」を意味する。宗教的な文脈では預言者ムハンマドの時代、初期イスラーム教団に参加した宗教の礎石を作った「祖」を指す。近代初期においては「サラフ(宗教の祖)に立ち戻る運動(サラフィーヤ:salafiya)」は、コーランに立ち戻ってそこから近代を受け止めようとする、宗教の近代化の運動も生み出した。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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