国際舞台に躍り出た、熱い中南米をウォッチ

執筆者:遅野井茂雄 2010年9月1日
エリア: 中南米

 21世紀に入ってからの中南米諸国の変貌ぶりには驚くべきものがある。

  債務危機からの経済停滞(「失われた10年」)、度重なる金融危機、テロと暴力に苛まれた危険な地域、「アメリカの裏庭」、こんなイメージが一掃されつつある。

  中南米は、リーマンショック後の国際金融危機の影響を軽微にとどめV字回復を遂げ、新興経済圏としての地位を獲得した。それは過去の数次にわたる金融危機を背景にしたきわめて堅調なマクロ経済運営(財政赤字は平均GDP比2%台)、経済改革を通じたグローバル化の下での競争力の向上、世界的な資源需要に応える豊富な天然資源、成長と改革の成果としての低所得者層のかさ上げと中間所得層の拡大による内需の広がりによるものだ。

  今回の危機は中南米発ではない先進国発のもので、これを乗り切ったとする中南米各国の自信たるや大きいものがある。先進各国が危機を機に辿りつつある、市場原理主義から国家の介入強化を通じたポスト新自由主義への移行は、左派政権への移行の中で多くの国がすでに10年前から経験済みのものであった。

  各国はとくに資源需要を背景に2008年まで5%以上の成長を遂げ、グローバル化に対応した独自の開発戦略を模索し、自信に裏打ちされ自己主張を強めてきた。

  とくにブラジルは、資源と製造業に裏打ちされた堅調な経済発展を背景にして、活発な多国間主義外交を展開し、域内の統合のみならず、南々協力、中東・アフリカ外交と攻勢を仕掛けた。多極世界の構築こそ世界安定の礎との立場を実践し、BRICs、IBSA 等の枠組みを動かし、イランの核開発疑惑問題では、トルコとともに米国が仕切ってきた制裁の枠組みに挑戦するところまで至っている。

  また、メキシコはもとよりチリ、ペルー、コロンビア等は、二国間多国間のFTA網の形成を通じて貿易と投資を活性化し、APECやTPPなどへのアプローチを積極的に重ね、グローバル経済との統合を通じて経済社会発展への手掛かりを得ようとしている。

  もちろん反米を掲げ、新自由主義の代案を明示的に掲げ反米網を築いてきたのはベネズエラである。ボリビア、エクアドル、ニカラグアなどの国々がキューバを含めた同盟関係を築いており、国内での革命に等しい急進的改革とともに、連帯、相互扶助、補完といったグローバル化の原理とは異なるつながりの方途を目指し、21世紀の新しい社会主義を模索している。

  大別するとこうして3つの極に分類できる中南米だが、多くが独立200年の節目を迎えている。その中で、アメリカ支配から解き放たれ、独自の発展と発信を世界に送り続け、台頭する中南米の姿をウォッチし、伝えていくことにする。

(遅野井茂雄)

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
遅野井茂雄(おそのいしげお) 筑波大学名誉教授。1952年松本市生れ。東京外国語大学卒。筑波大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所入所。ペルー問題研究所客員研究員、在ペルー日本国大使館1等書記官、アジア経済研究所主任調査研究員、南山大学教授を経て、2003年より筑波大学大学院教授、人文社会系長、2018年4月より現職。専門はラテンアメリカ政治・国際関係。主著に『試練のフジモリ大統領―現代ペルー危機をどう捉えるか』(日本放送出版協会、共著)、『現代ペルーとフジモリ政権 (アジアを見る眼)』(アジア経済研究所)、『ラテンアメリカ世界を生きる』(新評論、共著)、『21世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像』(アジア経済研究所、編著)、『現代アンデス諸国の政治変動』(明石書店、共著)など。
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