東北に出現した黙示録の世界

執筆者:名越健郎 2011年3月23日
タグ: 自衛隊 日本
エリア: アジア

 3月11日に東北太平洋岸を襲ったマグニチュード(M)9.0の大地震は、巨大な津波を伴って三陸沿岸を蹂躙した。死者は最終的に3万人に近づく可能性があり、福島第一原発の放射能事故まで引き起こした。M9.0の地震は世界の地震史上最大級。東北の被害と今後の復興を考えれば、気が遠くなってしまう。東北の不幸な歴史と宿命を思わずにはいられなかった。

壮絶な地獄図

 通信社の仙台支社長を務める筆者は震災後、大量の応援記者の受け入れや報道統括に忙殺されたが、この数日、時間を割いて津波被害を受けた仙台市若林区、宮城野区、名取市の沿岸地帯を回ってみた。
 そこはまさに、津波ですべてがさらわれた壮絶な地獄図だった。木造家屋は根こそぎ海水にさらわれ、がれきの山と化し、自動車や家電製品が散乱していた。家屋の屋根にクルマが乗った奇怪な光景も見た。ヘドロが残り、異臭も漂う。警察や自衛隊ががれきに閉じ込められた遺体の捜索作業をしていた。完全に破壊された家屋跡を訪れ、亡くなった家族の冥福を祈り、泣き崩れる女性もいた。
 仙台市沿岸部では巨大津波が2-3キロ上陸し、仙台東部道路が防波堤となって津波をせき止めていた。高速道路を一歩海側に入ると、すべてが破壊されたようなすさまじいパノラマが展開される。
 東北の物流拠点だった仙台港は大量のコンテナが散乱して海にも落下。周辺の倉庫も破壊され、車や荷物が四方に飛び散り、貨車やトラックまで津波に流されている。岩手県の陸前高田や大船渡、宮城県の気仙沼、南三陸、女川、福島県の南相馬などはさらに被害が激しいと伝えられる。この地獄図が三陸沿岸の400キロにわたって延々と続くのであり、途方もない大災害となった。
 現場取材した記者らは、支社に戻ると、「気仙沼、南三陸は街が消え、地獄のようだった」「石巻のビルのそばで遺体が放置されていた」などと口々に「黙示録の世界」を夜遅くまで語っていた。若い記者にとって、目撃談を語り合わねば寝付かれないほど不安で恐ろしい光景だったようだ。

カテゴリ: 社会
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執筆者プロフィール
名越健郎(なごしけんろう) 1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授を経て、2022年から拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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