「皇室外交」という言葉が宮内庁は気に入らないようだ。皇室の政治利用と見られかねないこともあるが、そもそも天皇、皇后両陛下の外国訪問や要人との謁見は本来の意味での外交とは異なるとの思いがある。
元来、外交というものは「自国の国益にとって、Aという国はBという国より重要である」との政治認識に基づいて展開される。そこには格付け、差別、優遇といった政治的キーワードがちりばめられている。
しかし皇室が展開する国際親善活動は、そうしたものとは無縁だ。両陛下はすべての国、すべての人に対して平等に接するのをモットーとしている。今回、中国要人との異例の会見が問題となったのも、皇室の政治利用への懸念のほか、特定の国だけに特別待遇を与えることへの拒否感が、天皇の思いを知る宮内庁にはあったと見られる。
これが単なるお題目でないことは、宮中の歓迎宴の飲みもの一つにも象徴的に表れている。宮中晩餐会で出される白ワインと赤ワインは、常にフランスの最高クラスと決まっている。これはアフリカの小さな国の大統領であろうと、米大統領であろうと不変で、考えてみると実はすごいことなのだ。

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