「瀕死」の朴槿恵政権(下)「意思疎通の不在」と「手帳人事の限界」

平井久志
執筆者:平井久志 2015年5月3日
カテゴリ: 国際 政治
エリア: 朝鮮半島

次期大統領選挙への影響

 今回の「裏金ゲート」は現在の政局だけでなく、2017年12月に予定されている次期大統領選挙にも影響を与えている。
 次期大統領候補としては、野党の方が、イメージが固まりつつある。前回の大統領選挙で朴槿恵大統領に敗れた文在寅(ムン・ジェイン)氏が2月8日の最大野党・新政治民主連合の党大会で代表に選出された。文在寅氏は雪辱を期して既に動き始めている。
 さらに、手堅い行政手腕を見せている朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長が、ダークホースとして注目されている。文在寅氏は盧武鉉元大統領の盟友というイメージが強く、無党派層の支持獲得が課題だが、朴元淳市長は固い支持層がない代わりに党派色が薄く無党派層の支持が期待できる。
 一時、人気を集めた安哲秀(アン・チョルス)議員もいるが、最近はかなり影響力を低下させている。
 これに対して与党側は本命不在の状況だ。セヌリ党の金武星(キム・ムソン)代表、鄭夢準(チョン・モンジュン)議員、金文洙(キム・ムンス)元京畿道知事などの名前が出ているが抜き出た候補がいないのが実情だ。

 

消えた潘基文候補

 今年の元日、韓国のソウル新聞と京郷新聞が次期大統領に誰が適任かという世論調査の結果を発表した。ソウル新聞の調査結果では、潘基文(バン・キムン)国連事務総長が38.7%で断然トップ、2位が野党・新政治民主連合の文在寅議員で9.8%、第3位は朴元淳ソウル市長で7.4%、第4位は与党・セヌリ党の金文洙元京畿道知事で4.2%、第5位は同党の金武星代表で4.0%、第6位が新政治民主連合の安哲秀議員で3.8%だった。
 京郷新聞の調査でも潘基文事務総長がトップで24.4%、第2位は朴元淳市長で12.0%、第3位は文在寅議員で10.6%、第4位は金文洙元知事で5.7%、第5位は安哲秀議員で5.3%、第6位は金武星代表で4.4%。第7位は鄭夢準議員で3.5%という結果だった。
 両紙の報道で「潘基文待望論」が広がった。野党の一部でも潘基文擁立論が出るほどだった。
 潘基文事務総長の2期目の任期は2016年12月に終わる。次期大統領選挙のちょうど1年前だ。韓国では慶尚道出身の大統領が続き、金大中(キム・デジュン)元大統領が初の全羅道出身の大統領となった。しかし、まだ忠清道出身の大統領はいない。潘基文事務総長は忠清道出身で、忠清道住民の大きな期待が掛かった。
 しかし、今回の成完鍾元会長の「裏金ゲート」で、潘基文事務総長が次期大統領に出馬する可能性は、ほぼなくなったとみられる。
 成完鍾元会長は2000年から忠清道出身者の政治家、官僚、ジャーナリストなどの親睦団体である「忠清フォーラム」を主宰していた。2011年にはソウルで旧ソ連のゴルバチョフ元大統領の講演会を開催するなど活発な活動を続けていた。成完鍾元会長はこの団体の経費をすべて負担していたとされる。潘基文事務総長は外務部長官時代にもこのフォーラムで講演し、国連事務総長になっても帰国時にはこのフォーラムに顔を出したことがある。成完鍾元会長は周辺に潘基文事務総長と親しいことを隠さなかった。韓国メディアによると、成完鍾元会長は「確かに私は潘氏と親しいし、また(潘氏の)弟も私の会社に勤務している。(忠清道)フォーラム創立メンバーであることも事実だ」と語っていた。
 潘基文事務総長は成完鍾元会長が自殺した後の4月16日にワシントンのナショナル・プレス・クラブで講演した後に記者団に対して「忠清フォーラムで会ったことはあるが、特に親しい間柄ではない」「報道を通じて(事件について)ある程度知っているが、この問題は自分とはまったく関係がない」と釈明した。
 さらに質問も受けていないのに「事務総長を退任すれば妻とおいしい店で食事をしたい。また、孫たちと一緒に過ごす時間を持ちたい」と退任後の計画について語り、大統領選出馬の可能性を否定した。
 潘基文事務総長の慎重な性格を考えれば、今回の事件で、潘基文事務総長が2017年末の大統領選挙に出る可能性はなくなったと言ってよいだろう。大統領選挙に出馬すれば成完鍾元会長との関係を追及されるのは明白だからだ。人生の末節を守るためにも、出馬はないと見るべきだろう。
 与党陣営は野党よりも高い支持率を維持しながらも、明確な大統領候補が不在であるために、次期政権獲得へのプロセスがまだ見えていない。保守陣営をまとめるような候補が生まれるかどうか2017年末までの長いレースが始まった。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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