難民問題:「説得する独仏」と「反発する東欧」

渡邊啓貴

 ハンガリーとセルビアの国境にプラスチックの白い扉がある。その扉は1時間に1回だけ覆面をした警察官の手で開かれるが、それが何時なのかは分からない。そして1度にひと家族だけ難民をEU(欧州連合)内に、つまりハンガリーに招じ入れるや、すぐにその扉は閉まってしまう。しかも警察官たちはシリア人だけを扉の中に入れる。アフリカ人は入れない――。
 今、このカフカの不条理の世界を思わせるような噂が、セルビアまでたどり着いた難民たちの間でまことしやかに流布しているという。現場の悲惨と絶望、そして微かな希望を伝えるリアルな現場の光景だ。
 そんな中、激しい内戦のコンゴ民主共和国からの難民の一言は、「クロアチアは遠いのか」だった。ようやく紛争地から命からがら逃れてきた難民は、今度は北上して生活のために西・北欧の豊かな国を目指す。

EU首脳会議は体面を保ったが……

 シリア、アフガニスタン、パキスタンやアフリカ諸国からヨーロッパに押し寄せる大量の難民にヨーロッパは揺れている。
 9月22日にブリュッセルで開かれた臨時のEU内相(閣僚)理事会は、9月9日ユンケル欧州委員会委員長が提案した12万人の難民を加盟国に割り当てる案を多数決で合意した(ハンガリー、ルーマニア、チェコ、スロバキアは反対)。このところ不協和音を大きくしていたEUはかろうじて面目を施した。
 しかしその内実はまだまだ予断を許さないものだ。というのは、難民受け入れ総数のうち確定しているのはイタリア・ギリシャに滞在する難民6万6000人に過ぎないからで、ハンガリーに滞在する残りの5万4000人の扱いについては未定だ。しかも各国への難民割当義務については合意していない。とりあえず、総数決定を急いだため、多数決の手段をとったが、加盟国内部での「しこり」が残った。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴
渡邊啓貴 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。
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