北朝鮮「党創建70周年」(上)「人民重視の指導者」を演出

平井久志
執筆者:平井久志 2015年10月15日
エリア: 朝鮮半島

 北朝鮮は朝鮮労働党創建70周年の10月10日、兵士ら約2万人が参加する軍事パレードを実施、さらに市民10万人を動員したパレードも行い、計12万人という史上最大規模で記念行事を行った。軍事パレードを見下ろす主席壇では金正恩(キム・ジョンウン)第1書記と中国の序列5位の劉雲山党政治局常務委員が手を取り合って参観した。今年12月で政権発足4年を迎える金正恩政権としては、金正恩第1書記の権力掌握を内外に誇示し、その一方で、中朝の伝統的な友好関係修復をはじめとする対外関係の改善を試みようとした記念行事でもあった。北朝鮮は繰り返し「自主権の問題」と主張していた事実上の長距離弾道ミサイルである「人工衛星」の発射も見送った。党創建70周年の裏側にある内在的意味を検証してみようと思う。

「人民」を97回も連呼

 金正恩第1書記は10月4日付で党創建70周年を記念した論文「偉大な金日成(キム・イルソン)、金正日(キム・ジョンイル)同志の党の偉業は必勝不敗である」を発表した。この論文は1万文字を超える長文だった。こうした大論文を発表したので、党創建70周年当日の演説はないのではないかという見方も出たが、金正恩第1書記は、25分間にわたる演説を行った。
 金正恩第1書記は演台に両手を突き、金日成主席を思わせる低音のだみ声で演説を行った。流ちょうではなかったが、政権掌握の自信は感じさせた。
 金正恩第1書記は演説で97回も「人民」という言葉を使った。
 金正恩第1書記は「歴史の突風の中でわが党が信頼したのは、ただ偉大な人民だけであり、人民は朝鮮労働党のまたとない支持者、助言者、援助者だった」「わが党は、史上初めて人民重視、人民尊重、人民愛の政治を実施し、終生人民のためにすべてを捧げた金日成同志と金正日同志の高貴な志を体し、今日も明日もとわに人民大衆第一主義の聖なる歴史をつづっていくだろう」という風に人民賛歌を続けた。そして、演説の最後を「すべての党員同志たちにアピールする。ともに偉大な人民のために滅私奉仕しよう。 不敗の党、朝鮮労働党のまわりに一心団結した偉大な朝鮮人民万歳!」という言葉で締めくくった。
 金正恩第1書記は人民をたたえ、党員に「人民への滅私奉公」を訴えたが、それは逆に党内にはびこる人民に奉仕しない官僚主義、保身主義の弊害の蔓延を示したともいえた。
 また、金正恩第1書記は「わが党は今後も、人民重視、軍隊重視、青年重視の3大戦略を第一の武器として最後の勝利のために力強く邁進する」とし、「人民」「軍」「青年」重視の姿勢を示した。人民重視、先軍路線を継承しながらも、青年重視の路線を示し、今後の世代交代を示唆したといえる。

この記事は役に立ちましたか?
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
この記事をSNSにシェアする
執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
comment:1
icon
  • 記事の閲覧、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。
フォーサイトのお申し込み
注目記事ランキング
  • 24時間
  • 1週間
  • f
最新コメント
最新トピック
  • 新着
  • 高評価
  • コメント数順