国連「事務総長選挙」に注目せよ(下)「東欧」「女性」というキーワード

 この立会演説会でもう1つ興味深かったのは、質疑応答に際して、イギリスがツイッターによる質問募集を呼びかけたことである。立会演説会に参加し、質問できるのは加盟国だけなのだが、加盟国の大使が一般の人からの質問を受けつけ、その人に代わって立会演説会で質問をするということが行われたのである。これは国連の民主化という観点から見ると大きな進歩であり、国連が単なる国家間機構以上の組織になりうる可能性を示した事例とも言える。
 こうした斬新な試みがなされた一方、相変わらず自国の利益しか考えていないような質問が多かったことも確かである。特に途上国はいかに自国の出身者を国連職員として登用するのかといった質問を繰り返しており、何となく就職相談会のような様相すら呈していたという側面もあった。
 また、この新ルールは現在の事務総長に対するある種の批判ともなっているのが興味深い。潘基文事務総長は、お世辞にもコミュニケーションが上手とは言えず、また国連の機構運営に関しても、韓国外相時代の部下を国連に連れてくるなど、かなり独善的な人事政策を行い、彼の周辺にはイエスマンしかいないといった批判も多くなされる。また、シリアなどの紛争への関与も低く、開発や人権問題についてもあまり積極的にビジョンを出してリーダーシップを発揮するといったところがみられない(唯一の例外は「持続可能な開発目標(SDGs)」を設定したことくらいだろうか)。
 もし潘基文が今回の新ルールに基づいて事務総長選挙に出たとしたら、また彼のコミュニケーション能力や機構運営のビジョンで事務総長に選出されたら、きっと世界中から非難を浴びることになったかもしれない。今回の新ルールは、まさにそうした能力の低い事務総長を選ばないためのルールでもあると言えよう。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
鈴木一人(すずきかずと) すずき・かずと 東京大学公共政策大学院教授 国際文化会館「地経学研究所(IOG)」所長。1970年生まれ。1995年立命館大学修士課程修了、2000年英国サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授、北海道大学公共政策大学院教授を経て、2020年より現職。2013年12月から2015年7月まで国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書にPolicy Logics and Institutions of European Space Collaboration (Ashgate)、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2012年サントリー学芸賞)、編・共著に『米中の経済安全保障戦略』『バイデンのアメリカ』『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』『ウクライナ戦争と米中対立』など多数。
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