フィッシュマーケットで発見したカツオ(筆者撮影、以下同)

 

 旅の文章というジャンルで圧倒的に面白いのは『火宅の人』の作者として知られる檀一雄。彼は『朝市、昼市』というエッセイで、こんなことを書いている。

「世界の、あちこちの町をうろつく時に、その町の食べ物を食べ、その町の飲み物を飲むんでなかったら、旅の意味が薄れるだろう」

 まさにその通りで、旅のすべてが食べることであるとは言わないが、少なくとも私にとっては、「旅」と「食」は分かちがたく結びつけられた永遠のテーマとなっている。旅に行けば、そこでしか見かけない食べ物を探して食べる。口に入れるまでの予想と、その後の結果は、それがアタリでも、ハズレでも、日常の「期待通りか否か」の2択しかない世界よりも、かなり意外性に満ち、私の視野を広げてくれる食体験となる。

 さらに、食を通して、訪れた地域の人々の生き方、考え方、歴史、文化、思想などにも、私の思考はしばしば飛躍していく。本連載では、その食体験のデザートのようなもの、つまり「食べて、そして、考えた」ことを書いてみたいのである。これをとりあえず連載の開始にあたり、「食考学」と名付けてみた。

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