メコンを眺めながらラオビール、がラオスの定番!(筆者撮影、以下同)

 

 逃亡者が自らを描いた逃亡記で傑作に出会う機会は滅多にない。だが、旧大日本帝国陸軍の「元大本営参謀」である辻政信(1902~68)が、1950年に自らの逃亡劇を記した著書『潜行三千里』は、抜群に面白い。何しろ描写が細かい。そして、ドラマチックだ。参謀としての能力には疑問符もつく人物だが、物書きとしては天性の才能を持っている。

旅のおともとなった辻の『潜行三千里』

 ノモンハン事件、マレー半島攻略戦などを立案した辻を知らない人も、今の時代は多いだろう。辻は終戦を迎えたとき、戦犯逮捕を回避するためにバンコクから逃げ出し、ほとぼりが冷めてから日本に帰ってこの『潜行三千里』を著した。それが一発逆転のベストセラーとなり、一躍有名人、衆議院議員から参議院議員にもなった。

ラオスで消息を絶った辻政信

 この男には惹きつけられるものがある。破天荒な生き様は、羨ましいやら、憎らしいやら。台湾に渡って蒋介石を助けた旧陸軍の参謀たち「白団」の足跡を追った『ラスト・バタリオン 蔣介石と日本軍人たち』(2014年、講談社)を書いて以来、白団とも関わりがあった辻にはずっと興味を持ち続けてきた。

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