「新聞自由」に貢献した一杯(筆者提供、以下同)

 

 中国に「民以食為天」という古くから今日まで語られ続けてきた名句がある。民は食を以って天と為す。つまり、民にとって天下国家は食べられてこそなんぼ、ということで、確かに中国人の価値観の1つを言い表しているところがある。

 いまの中国政府が民に強いている「経済が成長しているのだから、共産党の一党独裁には文句を言うな」という暗黙のルールとも、底流でしっかりつながっている。

 中国共産党はそのルールを、大陸から「一国二制度」の香港に適用しようとしている。これ以上の「民主」は唱えるな、中央政府に挑戦するな、さすれば繁栄は保証しよう。一昨年、返還20周年を記念して香港を訪れた習近平中国国家主席は、そう語った。

 もともと香港の人々は、食べるために生きている、と思えるところがある。食べている時の香港人がいちばん生き生きしている。仕事は忙しい。空を見上げればビルばかり。いつクビになるかわからない。とにかくあくせく働かないといけない。香港のエレベーターのスピードは世界一とも言われる。

 プレッシャーばかりで気が休まる時もないのが香港社会だが、唯一、食べている時の香港人は「今日もご飯にありつけた」という安堵が表情から感じられて、よそ者の私もホッとする。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。