脂の乗ったカジキのソテー(筆者撮影、以下同)

 

 村上春樹の恋愛小説『国境の南、太陽の西』のタイトルのもとになったのが、アメリカの南側にあるメキシコのことを歌ったナット・キング・コールの名曲『国境の南』である。

 東京から最も遠い離島の1つ、沖縄県の与那国島。さとうきび畑に囲まれた小さな空港に降り立った時、思い出したのは「国境の西」にある台湾のことだ。与那国は日本最南端ではなく(最南端は波照間島)、最西端にあたる。それから西に、日本の領土はない。与那国で見届ける夕焼けは、日本でその日に見られる最後の太陽になる。

店の名物「カジキの唐揚げ」

与那国空港に降り立った

 与那国は、「サツマイモ」と称される台湾を倒したような横長の形で、大きさが1周30キロ弱。北部の祖納(そない)地区、西部の久部良(くぶら)地区、南部の比川(ひがわ)地区の3つの集落がある。商業・行政は祖納に集中しているが、漁港は久部良にある。人口はおよそ1500人ほどという。

 与那国と台湾の食文化における最大の共通点は、両地の海岸を洗う黒潮に乗って移動しているカジキを食べることだ。カジキは大型の回遊魚で、くちばしのように突き出した「吻」と呼ばれる鋭い上顎に特徴がある。この吻で獲物の魚を突き刺したり、サメなどから身を守ったりするという、なかなかに強面の魚である。

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