生産性向上があってこそ賃金上昇に結びつく

 日本の労働生産性が低迷している。日本生産性本部がOECD(経済協力開発機構)のデータを基にした2019年のランキングでは、日本は加盟37カ国中26位と1970年以降、最も低くなっている。

 国民の“経済的な豊かさ”を示す指標として用いられるのが、「国民1人当たりGDP(国内総生産)」だ。これはGDPを人口で割ったもので、その数値が高ければ高いほど、国民が経済的に豊かであるということになる。

 OECD加盟国の中で、2019年の日本の国民1人当たりGDPは21位で4万3279ドル。米国は5位の6万5143ドルなので、日本は米国の約3分の2、韓国(22位で4万3039ドル)、チェコ(20位で4万3301ドル)と同水準ということになる。OECDの平均は4万6691ドルと日本よりも3412ドルも高い。つまり、日本国民は世界的に見て、経済的には“豊かではない”のだ。

 日本の国民1人当たりGDP順位は1996年には6位だった。しかし、バブル経済の崩壊を経て、順位を下げ、2017年以降はG7(先進7カ国)で最下位を続けている。

低下が続く「就業者1人当たりの労働生産性」

  国民1人当たりGDPと関係の深い指標が、「就業者1人当たりの労働生産性」や「時間当たり労働生産性」だ。「就業者1人当たりの労働生産性」は、GDPを就業者数で割ったもの。「時間当たり労働生産性」はGDPを就業者の労働時間数で割ったものだ。「就業者1人当たりの労働生産性」が向上することで1人当たりGDPが増加し、経済的に豊かになるということになる。日本のように少子高齢化・労働人口減少が進む状況では、当然ながらこの1人当たりの生産性向上が不可欠だ。

OECD.Statデータより筆者作成

 ところが、2019年の日本の「就業者1人当たりの労働生産性」は、OECD加盟国の中で26位(8万1183ドル)に低迷している。1位のアイルランドは18万7745ドルと2.3倍。日本は米国(3位で13万6051ドル)の約6割で、トルコ、チェコ、韓国、ニュージーランドなど、過去に抜かれたことのない国々も下回ることになった。OECD加盟国の平均は10万158ドルで、日本は1万8975ドルも平均を下回っている。(図表1)

 日本の順位は 1998 年から2017年までは20位~22位で推移してきた。それが、2018年に4ランクもダウンして26位になり、2019年も回復せずに26位にとどまった。日本生産性本部の分析では、2015年から2019年の日本の実質労働生産性上昇率は−0.3%(OECD加盟37カ国中35位)で、OECD平均の+0.1%を大きく下回っている。特に2018~2019年は2年連続で上昇率がマイナスになった。

 その理由としては、労働時間の短い高齢者や女性の就業者、非正規雇用者が増加したことで、労働時間を考慮しない「就業者1人当たりの労働生産性」を押し下げたことが挙げられる。

総務省「労働力調査」より筆者作成

 実際、総務省の労働力調査によると、2019年の就業者数は6724万人で、2018年から60万人増加したが、そのうち65歳以上の高齢者数が30万人の増加と半数を占める。さらに、雇用形態別では、非正規雇用者の増加が45万人に上る。(図表2)

 そこで注目されるのが、就業時間あたりの成果(付加価値額など)を計る「時間当たり労働生産性」だ。より短い時間で、どれだけの成果を出しているのかが、労働生産性向上の重要な鍵となる。

OECD.Statデータより筆者作成 *コロンビアはN.A.

 2019年の日本の就業1時間当たりの労働生産性は、OECD加盟国の中で21位(47.9ドル)、2018年(45.4ドル)と比較すると、名目ベースで5.7%(実質ベースで1.9%)上昇している。ただし、1位のアイルランドは108.2ドルと2.3倍だ。日本は、米国(8位で77.0ドル)の約6割、OECD加盟国の平均(59.3ドル)からも11.4ドル下回っている。(図表3)

 この上昇のカラクリは、「就業者1人当たりの労働生産性」低下と裏オモテだ。

 日本生産性本部では、「時間当たり労働生産性」の上昇は、労働時間が比較的に短い高齢者や女性、非正規労働者の増加の雇用が増加したことや、「働き方改革」の影響によると分析している。

厚生労働省「毎月勤労統計」より筆者作成

 確かに、一般労働者の年間総実労働時間は減少しており、2019年には2009年以来10年ぶりに年間2000時間を割り込んだ。(図表4)

 これらのデータから見えてくることをまとめよう。

①:労働時間が比較的に短い高齢者や女性、非正規労働者の雇用が増加した。

②:①と「働き方改革」の影響から就業時間が短くなり「時間当たり労働生産性」が上昇した。

③:しかしながら①②は「就業者1人当たりの労働生産性」を低下させた。

 従って、「国民1人当たりGDP」を向上させるためには、短い労働時間で大きな生産性を生み出す工夫が必要になる。言い換えれば、それが単なる“時短”にとどまらない「働き方改革」の本当の姿だと言えるだろう。

「職業能力を高める」ことに関心が低い高齢者

  日本の「働き方改革」が、このままでは看板倒れであることを、上記のOECD生産性ランキングは雄弁に物語っている。

  高齢者や女性に対して生産性の高い仕事への就業を進めることや、非正規雇用者の正規雇用者への転用を図り、より生産性の高い仕事に活用することが重要となる。こうした施策を行っていくためには、生産性の低い仕事をオートメーション化するなどの効率化が不可欠だ。

 内閣府が発表した2020年の「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、「老後も働いて収入が得られるように職業能力を高める」という回答は、米国の高齢者では27.1%だったのに対して、日本の高齢者は12.7%と米国の半数にとどまっている。

 政府の「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)にも、社会人が人生の途上でさまざまな形で、教育機関で教育を受ける「リカレント教育」の充実が盛り込まれた。こうした施策を積極的に推進することで、高齢者や女性が生産性の高い仕事に就くことを進めていくべきだ。

 生産性の向上は、賃金が上昇するためのベースになる。国民1人当たりGDPが上昇することで、賃金上昇の可能性が高まり、“経済的な豊かさ”につながっていく。日本は趨勢的な人口減少に突入している。労働生産人口が減少していく中で、“経済的な豊かさ”を実現させるためには、弛まぬ生産性の向上の努力を続けていく必要がある。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。