「イーサリアム」という新しい世界の「創世記」とその可能性の本質

Laura Shin『The Cryptopians』

執筆者:植田かもめ2022年3月20日
 

 ひとつの革命が起こるとき、その内側では人間同士の感情が交錯している。美しい理想や理念が、巨大な富や権力という現実と衝突する。

 ビットコインに代表される暗号資産は、その短い歴史の中で、熱狂と幻滅、高騰と暴落、そして多くの内部抗争を繰り返し、巨大な市場価値を得るに至っている。エルサルバドルは2021年にビットコインを法定通貨に定めた。

 ニューヨーク在住のジャーナリストであるローラ・シンによる本書『The Cryptopians: Idealism, Greed, Lies, and the Making of the First Big Cryptocurrency Craze』(暗号主義者:理想、強欲、嘘、そして最初の巨大な暗号通貨の熱狂)は、その内幕に迫るノンフィクションで、ビットコインに次ぐ市場価値を持つ暗号資産プラットフォームである「イーサリアム」の発展と危機を描いている。

テクノロジー理想主義と現実

 イーサリアムは、ロシアに生まれ、カナダ在住のヴィタリック・ブテリンが構想したものだ。国際情報オリンピックで入賞するなど早熟の天才であった1994年生まれのブテリンは、17歳の時に父親からビットコインの存在を知らされる。ビットコイン関係者向けの専門雑誌に時給4ドルで記事を投稿していた彼は、弱冠19歳であった2013年に、ビットコインとは別の新しい仕組みを構想し「暗号通貨2.0」と呼ぶ。「イーサリアム」と名付けられたこの暗号資産は、誕生から5年に満たない期間で、1350億ドル以上の市場価値を持つに至る。

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