「リスクゼロなら仕事もゼロ」のジレンマ

執筆者:谷口美代子2023年1月10日
2006年9月、フィリピン南部ミンダナオ島でMILFのムラド議長(右)と会談する緒方貞子氏。左は山崎隆一郎駐比大使(当時) (C)時事

 

1. 緒方貞子氏が見通した「平坦ではない和平プロセス」

 1960年代後半から開始されたミンダナオ紛争は、国内少数派(主にムスリム)が民族自決権を主張し、フィリピン国家からの分離独立を目指した局地的な自決型紛争である。40年以上に及ぶこの紛争は、スーダン(現在の南スーダン)、コロンビアなどと並んで世界最長の民族紛争のひとつに位置付けられる。

 その長期化の要因には、①フィリピン政府側[1]の和平に向けた方針・政策に一貫性と整合性が欠けていたこと、②大統領の政治的意思と政治資本の欠如、③双方の和平合意履行のコミットメント問題、④イスラーム系反政府勢力側(MNLF、MILF)の分派・党派化、⑤ムスリム有力氏族などの既得権者や政治エリートによる和平プロセスの妨害、などが挙げられる[2]

 こうした状況が続いたが、政府とMILFとの停戦合意が締結された2003年以降は海外ドナーの支援が加速し、関係者の間では数年内に和平合意が締結され、新たな自治政府が設立されるとの声も上がった。

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