「グローバル・サウスの盟主」として存在感を高めるインドのモディ首相(C)AFP=時事

 

鮮明になるヒンドゥー・ナショナリズム色

 また、この機会に、自由、民主主義、人権、法の支配といった価値や原則で結ばれたインドとの二国間関係を多層的に深化させていきたいと考えています¹

 3月20日、訪印に際し、岸田文雄首相は現地有力誌への寄稿のなかでこのように述べた。それぞれの国内で異論を封じ、国際社会にも脅威を突き付ける中国やロシアと違い、インドは日本など西側と価値を共有する国だとみなされてきた。たしかにインドは、1947年の独立以来、一度もクーデーターや軍事政権を経験したことがなく、定期的な選挙を通じて民主的な政権が形成されてきた。多くの国民が貧しいだけでなく、宗教や民族の多様性が大きく、カースト対立すら抱えた人口大国が、これほど長期にわたって安定的に民政を維持してきたことは称賛に値する。

 けれどもいま、そのインドが本当にわれわれと価値を共有する自由民主主義体制の国といえるのか、怪しくなってきている拙著『インドの正体』(中公新書ラクレ)で詳しく論じたが、現在政権を担っているインド人民党(BJP)のナレンドラ・モディ政権は、とくに2019年の第2期政権発足以降、ヒンドゥー・ナショナリズム色を鮮明にし、ムスリムなど少数派に対して排他的な政策をつぎつぎと打ち出すようになった²。ムスリムの多いジャンムー・カシミール州の自治権を撤廃し、2分割して連邦直轄領とする決定や、周辺国からのムスリム以外の移民にインドの市民権を認める法案などだ。その過程では、野党やメディア、市民団体から上がる疑問や抗議の声に対し、インターネットを規制したり、政治家や活動家を拘束したりといった強権的手法を躊躇なく採用している。

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