ヒンドゥー至上主義が正当化されるインド・モディ政権の「民主主義観」

執筆者:伊藤融 2023年5月12日
タグ: インド
エリア: アジア
「グローバル・サウスの盟主」として存在感を高めるインドのモディ首相(C)AFP=時事
インドのモディ政権は「世界最大の民主主義国家」という表看板の一方、国内ではヒンドゥー至上主義を鮮明にし、ムスリムや政府に批判的なメディア、野党指導者に対する弾圧を続けている。欧米は「民主主義の後退」との懸念を示すが、モディ政権には「インドこそが民主主義の本家」であるという強い自負心と独自の民主主義観がある。

 

鮮明になるヒンドゥー・ナショナリズム色

 また、この機会に、自由、民主主義、人権、法の支配といった価値や原則で結ばれたインドとの二国間関係を多層的に深化させていきたいと考えています¹

 3月20日、訪印に際し、岸田文雄首相は現地有力誌への寄稿のなかでこのように述べた。それぞれの国内で異論を封じ、国際社会にも脅威を突き付ける中国やロシアと違い、インドは日本など西側と価値を共有する国だとみなされてきた。たしかにインドは、1947年の独立以来、一度もクーデーターや軍事政権を経験したことがなく、定期的な選挙を通じて民主的な政権が形成されてきた。多くの国民が貧しいだけでなく、宗教や民族の多様性が大きく、カースト対立すら抱えた人口大国が、これほど長期にわたって安定的に民政を維持してきたことは称賛に値する。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
伊藤融(いとうとおる) 防衛大学校人文社会科学群国際関係学科教授。1969年広島県生まれ。中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程後期単位取得退学、博士(学術)。在インド日本国大使館専門調査員、島根大学法文学部准教授等を経て2009年より防衛大学校に勤務し、21年より現職。著書に『インドの正体』(中央公論社/2023年)、『新興大国インドの行動原理――独自リアリズム外交のゆくえ』(慶応義塾大学出版会/2020年)などがある。
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