アンソニー・アルバニージー豪首相(左から2人目)率いる労働党政権の選択とは? 5月20日、広島サミットにおけるクアッド首脳会談にて (C)AFP=時事

 

 台湾海峡の緊張が高まるにつれ、豪州の中でも対応をめぐり議論が行われている。前保守連合政権時代の国防大臣であったピーター・ダットンは、台湾をめぐるいかなる米中間の紛争においても、豪州が米国を支援しないことは「考えられない(inconceivable)」と述べ、物議を醸した。これに対し、当時労働党の影の外相であったペニー・ウォン現外相は、ダットン国防相の発言は豪州の伝統的な「曖昧路線」からの逸脱であり、いたずらに緊張を高めるものとして厳しく非難した。実際、2022年5月におよそ9年ぶりに政権に返り咲いて以来、労働党政権は対中関係の改善を図るとともに、台湾問題に関する発言をトーン・ダウンさせている。果たして、実際に台湾海峡で有事が勃発した場合、豪州は日本とともに米国の介入を支援するのだろうか?

豪州にとっての台湾

 そのことを考えるために、まず豪州にとっての台湾の位置付けを確認したい。歴史的にみて、豪州が台湾の防衛に熱心であったとは言い難い。1954年から55年にかけて勃発した第一次台湾海峡危機の際、金門馬祖両島の防衛を主張する米国に対し、当時の豪政府は英国とともに反対し、また「台湾地域」の軍事任務がANZUS条約(豪州、ニュージーランドおよびアメリカ合衆国の軍事同盟条約)の適用外であるとの見方を示した。1972年2月に米中和解が行われると、同年12月に誕生した労働党政権は即座に中国との国交を正常化し、台湾と断交した。冷戦後も、2004年に豪州の外相が中国を訪問した際、台湾有事が自動的にANZUS条約の発動に結びつくものではないとの趣旨の発言を行い、米側の不評を買ったこともある。

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