「大山鳴動鼠ゼロ匹」で終わる企業統治改革

磯山友幸
執筆者:磯山友幸 2012年8月1日
エリア: 日本
トップの暴走を止められなかったオリンパス(菊川剛元社長)(c)AFP=時事
トップの暴走を止められなかったオリンパス(菊川剛元社長)(c)AFP=時事

 法務省の法制審議会は8月8日に会社法制部会を開き、会社法見直しのための要綱をまとめる。これを受けて政府は会社法改正案を国会に提出する見通しだ。企業統治(コーポレート・ガバナンス)の強化が最大の焦点だったが、試案として示されていた「社外取締役の1人以上の義務付け」も、日本経団連など経済界の反対で、あっけなく棚上げされた。 「会社法改正は企業に都合の良い規制緩和ばかりが繰り返されてきた。企業に厳しい規制の導入は1993年改正以来19年ぶり。しかも、社外取締役1人以上の義務付けという極めて低いハードルだった。それすら嫌だという経済界はあまりにもひどいのではないか」  長年、商法改正を見てきた法律学者は吐き捨てるように言う。オリンパス事件や大王製紙事件など、経営者自身が関わった不祥事が相次いで表面化し、経営者の暴走を防ぐ手立ての必要性が叫ばれているにもかかわらず、経済界自身が襟をただそうとする姿勢を示すことはなかった。

馴れ合いが生む「トップの暴走」

「オリンパスにも社外取締役がいたのに機能しなかった」。経済界は社外取締役の義務付けにそんな理屈で反対した。警備員がいても泥棒に入られるのだから、警備員は無意味というのと同じだが、経営者の間でもこの屁理屈にはさすがに批判が多い。すでに日本の上場企業の半数には社外取締役がおり、1人以上の義務付けに大騒ぎする日本経団連の事務局に違和感を覚えている企業トップも少なくない。
 なぜ、そこまで社外取締役に反対なのか。
「異質な存在を組織内に受け入れたくない、ということだろう」と企業統治に詳しいコンサルタントは言う。多くの日本企業の取締役会にはそれぞれの会社の「空気」つまり「阿吽の呼吸」のような独特のムードがある。それを理解できない異分子に介入されたくない、というのが経営者のホンネなのだ。つまり「KY(空気を読めない人)はお断り」というわけだ。
 日本企業の多くでは、取締役が業務執行を兼務している。つまり、取締役事業本部長のように、取締役として業務をチェックする立場と、自らの部門の業務を遂行する立場が渾然一体となっているのだ。そんな会社の取締役会では「その事業の採算性よりも、誰がその事業をやろうとしているかが大事になる」という。誰しも社長や有力者が打ち出した新規事業には口は出せない。そんな取締役会に、「この事業に将来性はあるのか」などと聞くようなKYな社外取締役など、いては困るというのである。
 KYな事、つまり業務執行に当たる他の取締役が触れられたくない事を聞く人が誰もいない取締役会で何が起きるか。馴れ合いが生じるのは火を見るより明らかだ。取締役の任命権者である社長や会長に苦言を呈することなどまったくできない状態になれば、オリンパスのようなトップの暴走が始まる。つまり不正を防ぐブレーキ機能が働かなくなるわけだ。

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執筆者プロフィール
磯山友幸
磯山友幸 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)などがある。
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