エジプト7月3日のクーデタ──乗っ取られた革命

池内恵
執筆者:池内恵 2013年7月4日
カテゴリ: 国際 文化・歴史
エリア: 中東

 エジプト軍部が「民衆の名の下に」クーデタを行った。7月3日夜9時(日本時間4日朝4時)から、スィースィー国防相が、国営テレビで放映された映像の中で声明を読み上げた。憲法を停止。ムルスィー大統領は解任。アドリー・マンスール最高憲法裁判所長官が実権の定かでない暫定大統領に就任する。大統領選挙を早期に行い、選挙法改正を急ぎ新しい議会選挙の早期実施を目指す。当面はテクノクラートを中心の小規模の内閣を任命して行政を行う。幅広い諸勢力を含む委員会を設置する【概要の英訳】。

 しかも軍部は宗教権威をも連座させた。スィースィーのテレビ演説には、イスラーム教学の頂点に立つアズハル総長と、コプト教大司教も従えていた。彼らに順番に登壇させ、軍の動きを承認する発言をさせる念の入れようだった。さらに道化のように、ノーベル平和賞受賞者のバラダイ前IAEA事務総長までもが後に続いた。強権発動を正当化する演説を強いられた彼らの威信は傷ついた。クーデタへの加担は、宗教者の超越性とも、民主化活動家の信頼性とも相容れない。

「人民」の名の下に民主主義を放棄

 6月30日のデモの規模が空前のものだったとはいえ、自由で公正な選挙によって選ばれ、特に大きな人権侵害を行ったわけでもないムルスィー大統領を、たった一年で、軍の武力を背景に排除したことは、エジプトの民主主義の発展に大きな傷を残した。巨視的に歴史上のさまざまな革命を振り返れば、さほど珍しくもない光景ではあるが、目の前で生じるのを見る機会はそれほど多くない。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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