ウクライナ危機:米国で加速する「エネルギー安全保障」論議

執筆者:足立正彦 2014年3月20日
エリア: ヨーロッパ 北米

 ウクライナからの独立を宣言していたクリミア自治共和国では、3月16日に実施された住民投票でロシアへの編入を支持する投票が96.77%の圧倒的多数となった。住民投票結果を受け、クリミア自治共和国の議会はウクライナから独立してロシアに編入することを求める決議を17日に採択し、翌18日にはロシアは同自治共和国とロシアへの編入を目指す条約に調印した。こうした急展開に欧米諸国は猛反発しており、オバマ政権も対ロシア追加制裁発動の方針を明らかにするなど緊張が高まっている。

 ウクライナ危機は当然ながら米国内に大きな衝撃をもたらしており、多方面に広範な影響が及んでいる。その影響は「シェールガス革命」の恩恵を享受している米国のエネルギー政策にも及んでいる。米国の米エネルギー情報管理局(EIA)は2020年までに米国は天然ガスの純輸出国になると予想しており、米国はエネルギー分野で優位を確保しつつある。米国の「シェールガス革命」は米国の外交、安全保障政策にも多大な影響を及ぼすことになると考えられていた。だが、今回のクリミア危機の発生は、欧州における米国の同盟国のロシア産天然ガスへの依存を軽減するために、米国は何をすべきかを真剣に検討する機会をもたらしている。とりわけ、米議会では保守派の共和党議員を中心にロシアが外交上の武器として使ってきたウクライナや欧州諸国向けの天然ガス輸出に対抗するため、米国産液化天然ガス(LNG)を迅速に輸出できるように米国政府の認可プロセスの大幅見直しを行うべきとの議論が急速に広がっている。その狙いは欧州における米国の同盟国や友邦国との「エネルギー安全保障」の強化を図ることである。下院エネルギー・商業委員会に在籍する共和党議員は、エネルギー省(DOE)に対し現在認可を求めている24件のLNG輸出プロジェクト申請を迅速に認可するとともに、世界貿易機関(WTO)加盟国向けのLNG輸出を制約しない内容の法案を最近提出した。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
足立正彦(あだちまさひこ) 住友商事グローバルリサーチ株式会社シニアアナリスト。1965年生まれ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より、住友商事グローバルリサーチにて、シニアアナリストとして米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当し、17年10月から米州住友商事ワシントン事務所に勤務、20年4月に帰国して現職。
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