タイの「憲法裁判所」は誰を守っているのか?

樋泉克夫

 不完全な総選挙から1カ月半ほどが過ぎた3月18日、反政府運動が沈静化したことを理由に、インラック政権はバンコク首都圏を対象として発令されていた非常事態宣言を解除した。だが21日、憲法裁判所が憲法第108条の「選挙日は王国全域において同一日としなければならない」との規定に違反していることを理由に、2月2日の総選挙(下院、定数500)は無効との判断を下したことから、再び緊張が高まりつつある。

 2月2日の総選挙は、最大野党である民主党がボイコットしたことで、同党最大の支持基盤である南部の28の選挙区で候補者ゼロとなり、加えて投票日当日には反タクシン派の妨害により、バンコクの一部などで投票中止となった。総選挙を巡っては、2月12日、民主党が選挙無効を求めて訴えたが、憲法裁判所は却下している。だが、その後、有識者の訴えを受けた国家オンブズマンが3月6日に提訴していた。

 憲法裁判所の判断を受けて、選挙管理委員会は政府と再選挙の日程を協議することになるが、タクシン派有利の選挙区事情に大きな変化はなく、最悪の場合は再選挙、再選挙無効、再々選挙……といった堂々巡りに陥りかねない。

 

憲法によるクーデター?

 タイでは1932年の立憲革命以来、クーデター(憲法停止・国会解散)⇒軍政(暫定憲法/暫定政権/国民議会又は制憲議会)⇒新恒久憲法制定⇒民政移管(総選挙)⇒新政権(新政権/新上下両院)⇒安定期⇒政権基盤動揺(与党間不和/与野党対立)⇒国会機能低下(或は停止状態)⇒政情不安⇒クーデターという政治サイクルが繰り返されてきた。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫
樋泉克夫 愛知大学教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年より現職。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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