認知症の現場で「当事者の声」はどう扱われるべきか

六車由実
執筆者:六車由実 2014年12月6日
エリア: 日本

 10月31日、この日はすまいるほーむのみんなにとって忘れられない辛い日となった。増村紀子さん(仮名)がすまいるほーむから他の施設に移ることになったのだ。そして、その日はあまりにも突然にやってきたのだった。

 

紀子さんの存在

 本連載に何度も登場している紀子さん(昭和13年生まれ)は、地元の公営住宅で独り暮らし。レビー小体型認知症や重度の難聴であることもあり、妄想や幻覚が強かったため、生活上に様々な困難を抱えていた。そんな彼女がすまいるほーむに来たのは昨年の7月下旬のこと。すまいるほーむに来たばかりの頃、紀子さんは、新しい環境になかなかなじめず、戸惑うばかりだった。他の利用者さんと交わることもできず、かといってひとりで孤立している状況にも堪えられず、身の置き所のない自分の気持ちをいつももてあましていた。そしてその頃の紀子さんは常に「私どうしていいのかわかりません」という言葉を口にし、困惑の表情をみせていた。今から考えれば、当時の紀子さんは、すまいるほーむになじめず戸惑っていたばかりでなく、「生きる」ということにもどうしていいのかわからないという大きな不安と恐怖のなかで彷徨っていたのかもしれない。

執筆者プロフィール
六車由実
六車由実 1970年静岡県生まれ。民俗研究者。デイサービス「すまいるほーむ」管理者・生活相談員。社会福祉士。介護福祉士。2008年に東北芸術工科大学准教授を退職し、静岡県東部地区の特別養護老人ホームの介護職員に転職。2012年10月から現職。「介護民俗学」を提唱し実践する。著書に『神、人を喰う』(第25回サントリー学芸賞受賞)、『驚きの介護民俗学』(第20回旅の文化奨励賞受賞、第2回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞)。
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