年初に考える「農協」問題(下)  「政府」「農家」「国民」みんなが得をする方法

執筆者:山下一仁 2015年1月16日
 大手町にそびえるJAビル。全中、全農などが本部を置く。
大手町にそびえるJAビル。全中、全農などが本部を置く。

 株式会社が参入すれば農業は活性化するという話があります。しかし、それは実情がわかっていない人たちの意見です。参入したユニクロ、オムロンなどの優良企業もことごとく撤退、カゴメのトマト栽培事業でさえ、10年間試行錯誤してやっと黒字化できました。カゴメの担当者は、「企業が農業をやる難しさがつくづくわかりました」と言っています。自然相手の農業は工業と若干違うところがあります。

株式会社は農業に向かない

 植物工場は自然の影響を比較的受けませんが、LEDを利用した完全人工光の植物工場は、コストが高くごく一部の葉物野菜を除いて全く採算がとれません。太陽光を利用したハウスの場合には、トマトなどの野菜が生産されています。しかし、ハウスの中の湿度、温度を均質に管理することは、オランダのように季節が春と冬しかないような天候が安定している国では難しくありませんが、日本のように四季の中でも天候が変化する国では、簡単ではありません。ある程度はIT技術が役に立ちますが、最後は人力による調整が必要です。オムロンやカゴメがなかなか成功できなかったのは、このためです。これほどの大企業が失敗する傍らで、個人の農業者はハウス栽培に参入して利益を上げています。

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執筆者プロフィール
山下一仁(やましたかずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1955年岡山県生れ。77年東京大学法学部卒業、同年農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年から現職。近著に『日本が飢える!』(幻冬舎新書)、『国民のための「食と農」の授業』(日本経済新聞出版)、『いま蘇る柳田國男の農政改革』(新潮選書)
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