SMAP「チョナンガン事件」を韓国はどう見たか

平井久志
執筆者:平井久志 2009年6月号
エリア: 朝鮮半島

 SMAPの草なぎ剛さんが四月二十三日に東京都港区内の公園で裸になり公然わいせつ容疑で逮捕された。この事件は韓国でも大ニュースになった。通信社の聯合ニュースが同日午前十時四十九分に配信すると、大手ポータルサイトの「ネイバー」や「ダウム」でそれぞれ検索の一位、二位になるなど韓国での関心の高さを示した。テレビの芸能ニュースなども大きく報じた。
 韓国では、草なぎさんの名前の前にいつも「知韓派」や「親韓派」などの形容が付けられ、親近感をもたれている。日本では「草なぎ剛」を韓国語読みすると「チョナンカン」になると思われているが、「剛」は別の文字に続くと「ガン」と発音するため、韓国では「チョナンガン」で通っている。
 盧武鉉前大統領や李明博大統領が訪日した際には、得意の韓国語を使い、日本のテレビ局が主催したタウンミーティングの司会や特別ゲストになるなど、日韓の親善や交流にも寄与していると評価されている。
 このため、韓国では同情論が優勢だ。酒の上の失敗には日本以上に寛大な韓国では「なんでそのくらいで逮捕されるの?」という雰囲気が強い。
 韓国での草なぎさんのイメージは独特のものである。その真面目さや誠実さが評価される反面、なんとなく「キモい」イメージがあり、少し間が抜けたところもある。
 韓国のネットでは長らく「チョナンガンの屈辱」という写真が掲載されている。場所は韓国の仁川空港。サッカー韓国代表チームの監督だったヒディンク氏の後ろで、草なぎさんがうれしそうに手を振っている。空港に到着した草なぎさんが、集まった報道陣をみて自分へのインタビューだと思い喜んでいるが、実はヒディンク氏に話を聞こうと集まった取材陣だったというオチだ。

「姿勢を学ぶべき」との賛辞も

 韓国人は在日韓国人が韓国語をしゃべると「同じ民族なのに下手だ」とけなすが、日本人をはじめ外国人が韓国語をしゃべると自尊心をくすぐられるせいか「とても上手です」と大変に甘い。
 草なぎさんの韓国語もこれに近い。正直言って下手だ。独特の発音が聞いていて恥ずかしくなる。それでも韓国で評価を受けているのは、彼が生真面目に「韓国大好き」を叫び続けているからである。
 韓国の有力紙「東亜日報」の東京特派員は、この事件についてのコラムで「どうして当事者に悔しいという気持ちがないといえるだろうか。しかし、彼はすべてのことを素直に受け入れ『申し訳ありません』を連発した。理由は一つ。『公人』だからだ。普段、一般人より多くの恩恵と愛情を受け、莫大な収入に社会的な影響力まで持っているだけに、責任と義務も重いことを自ら受け入れたように見えた」と擁護。むしろ、財力や権力、知名度があれば罪にならない韓国の「有銭無罪」「有権無罪」「有名無罪」の現実と比べ、草なぎさんの姿勢を学ぶべきとさえした。
 草なぎさんは逮捕された時に「シンゴー、シンゴー」と叫んでいたという。日本の報道では、これはSMAPのメンバーで親友の香取慎吾さんの名前を呼んだものとされている。だが、付近の住民の証言では草なぎさんは逮捕される前に韓国語のような言葉を叫んでいたともいう。酔っ払った中で、苦労して学んだ韓国語を叫ぶことはあり得る。
 京郷新聞は「完全に酔っ払っていた草なぎが自分の置かれた状況もわからず、(自分へ近づいてくる)警察官をおかしな人間と錯覚、『警察を呼んでくれ』と助けを求めるために、自分でもわからないうちに韓国語の『申告(シンゴ)』を叫んだのではないか」と推測し、「シンゴー」は韓国で警察などに届け出る意味の「申告(シンゴ)」であるという説を提起した。
 草なぎさんに聞いてみたいが、それだけ酔っていたら確認のとりようもないだろう。
 ところで、先に「韓国では『チョナンガン』で通っている」と書いたが、実はこれも「草なぎ剛」の正確な韓国語読みではない。草なぎの「なぎ」の字は韓国では使われていない漢字だ。あえて読むなら「剪」は「ジョン」なので「チョジョンガン」が正しい。
 どうも漢字をよく知らない韓国人が「草なぎ」を「草薙」と勘違いし、「薙」の字が「難」と似ているのでさらに勘違いして草なぎさんに「ナン」と教えたのではないかという説がある。「薙」の字は韓国語読みでは「チ」であり、「ナン」ではない。
 今回の事件は、名前の中に「難」を抱え込んだ草なぎさんの「災難」だったのかもしれない。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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