「被曝リスク基準」は信用できるか?(上)ICRPに欠ける「科学性」と「合理性」

執筆者:塩谷喜雄 2012年3月29日
タグ: 日本 原発
エリア: アジア
福島第一原発敷地内での作業後、放射線量の測定を受ける男性(c)時事
福島第一原発敷地内での作業後、放射線量の測定を受ける男性(c)時事

 東京電力・福島第一原子力発電所が、周辺地域に大量放出した放射性物質による被曝が「ただちに健康に影響はない」根拠として、東電と政府は、国際放射線防護委員会(ICRP)の示す国際基準を繰り返し挙げている。これは明らかな誤用、誤解である。  ICRP勧告が示す被曝線量限度は、それ以下なら安全・安心という個人を守る「健康基準」ではない。為政者、事業者、管理者が、作業員や一般公衆にどれだけのリスクを強いても許されるかという、「受忍の限度」を示す基準である。しかも、その数値については、最新の科学的検討が反映されておらず、事業者寄りのバイアスがかかっているとして、科学性と合理性の両面に強い批判があることも、日本国内ではあまり知らされていない。こと原子力に関する限り、国際機関への無条件の信頼は、かえって危機を増幅させる。

カテゴリ: 政治 社会
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執筆者プロフィール
塩谷喜雄(しおやよしお) 科学ジャーナリスト。1946年生れ。東北大学理学部卒業後、71年日本経済新聞社入社。科学技術部次長などを経て、99年より論説委員。コラム「春秋」「中外時評」などを担当した。2010年9月退社。
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