「最高人民会議後」の北朝鮮(下)「核心幹部」2人の動静に注目

平井久志
執筆者:平井久志 2015年4月22日
エリア: 朝鮮半島

金己男党書記の主席壇不在の意味

 さらに今回の報道で気になるのは党幹部が顔を揃える主席壇に金己男(キム・ギナム)党書記と姜錫柱(カン・ソクチュ)党書記の姿がなかったことだ。2人とも高齢のための健康問題でないとすれば、その主席壇不在の意味を考えざるを得ない。
 実は金己男党書記は主席壇ではなく、下の一般席の前方に李載佾(リ・ジェイル)党宣伝扇動部第1副部長や金京玉(キム・ギョンオク)党組織指導部第1副部長らと並んで座っていた。金己男氏の主席壇不在は健康問題ではない。この席を見れば、党第1副部長クラスの扱いである。
 金己男氏は1929年8月生まれの86歳だ。党組織指導部と並ぶ党の核心部署である党宣伝扇動部を担当する党書記である。その金己男氏が主席壇を降り、一般席で党第1副部長たちと一緒に座っているということは、何らかの理由で降格された可能性がある。
 年齢的な理由による引退へのプロセスという見方もあるが、主席壇に座った金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長は87歳、崔泰福(チェ・テボク)党書記(主席壇の序列からは外れているが最高人民会議には議長で出席)は84歳、楊亨燮最高人民会議常任委副委員長は89歳、李勇武(リ・ヨンム)国防委副委員長は90歳、呉克烈(オ・グクリョル)国防委副委員長は85歳である。
 最高人民会議開催後の4月11日に開催された金正恩第1書記推戴3周年中央報告大会や4月14日に開催された「金日成同志誕生103周年慶祝中央報告大会」でも金己男党書記と姜錫柱党書記の出席は確認されていない。
 党宣伝扇動部は最高指導者である金正恩第1書記の偉大性の宣伝や偶像化、また住民の思想統制などを統括する部署だ。金己男氏は中央報告大会などで基調報告をするなどの重責を担ってきた。
 本稿執筆時点では、北朝鮮メディアで金己男氏の名前が最後に報じられたのは、朝鮮中央通信が2月16日に金正日総書記の誕生73周年祝賀の宴会で演説をした際だ。この時は「党政治局委員であり党中央委書記である金己男同志」と紹介された。党政治局拡大会議が開催されたのが2月18日であるから、その際に金己男氏の地位に変動があった可能性は排除できない。
 また、金正恩政権の中で急速に権力を強化しつつある金正恩第1書記の妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が党宣伝扇動部の副部長であることも気になるところだ。通常なら、金己男氏は金与正氏の「家庭教師」的な存在としてむしろ権力をさらに強化しても良いはずだ。現在の状況が「降格」であるなら、金与正氏との関係はどうなっているのか。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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