「ユーロ」は安定性を増した:「拒んだはずの緊縮策」飲んだギリシャ

執筆者:渡邊啓貴 2015年7月15日
エリア: ヨーロッパ

 7月13日に終了したユーロ圏19カ国首脳会議は、ギリシャに対する金融支援再開の協議に入ることで合意した。多額の債務を抱えるギリシャは、先月末にIMF(国際通貨基金)への15億ユーロ返済期限を迎えたが、自ら発行した債権の償還ができず、事実上デフォルト状態となっていた。だが、金融支援再開の決定によって、今回のギリシャ問題は一息ついた格好となった。

危機を転じて発展する欧州統合

 この間、ギリシャのユーロ離脱の可能性も含む激しい攻防が、ユーロ圏各国の間で繰り広げられたが、そこで明らかになったのはギリシャの立ち位置と、欧州の南北問題の中でのドイツの立場をめぐる統合論議であった。
 第1に、一連のギリシャの対応は、いわば「弱者の恐喝」であった。この言葉は、今回のギリシャ危機で、ヨーロッパの象徴であるギリシャを切り離すことができないEU(欧州連合)、ユーロ圏の立場をよく示していた。ギリシャの離脱によってユーロは信頼を失い、EU統合も信頼を失うからである。
 ギリシャ問題はこの国を切り離せば、ユーロ圏が楽になるという短期的な見方では解決しない。むしろ長期的には事態は重くなる。ギリシャを抱え込むことによってユーロの評価は安定する。結局は首脳会議でも、ギリシャの離脱そのものは主要なテーマとはならなかった。
 一部のマスメディアでは、ギリシャの離脱によってユーロ崩壊と欧州統合の挫折を示唆するような論調が賑わっているが、これは間違いである。2012年のギリシャ危機以来むしろ通貨統合は財政統合を視野に入れて制度的整備は進展した(2012年に成立した欧州安定メカニズム=ESM=による直接的な資本注入と一元的銀行監督メカニズム=SSM=の設立を実現)。今回のギリシャの新たな金融支援がESMの枠内でなされたことは、通貨統合=ユーロ制度がより安定性を増したことを示している。
 統合は直線的にではなく、ジグザグで進む。危機をバネにして更なる発展へ向かう。外観では劣勢にあるように見えて、事実上は前進している。そのようなケースは他にもある。キプロス・ギリシャ財政危機の中で銀行統合は進んだ。むしろセキュリティネットがキプロス・ギリシャ危機で構築されてきたことを意味する。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴(わたなべひろたか) 帝京大学法学部教授。東京外国語大学名誉教授。1954年生れ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程・パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校・ボルドー政治学院客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員教授、外交専門誌『外交』・仏語誌『Cahiers du Japon』編集委員長、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。最新刊に『アメリカとヨーロッパ-揺れる同盟の80年』(中公新書)がある。
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