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「オマル師死去」で大困惑する中国:タリバンは分裂不可避か

春名幹男
執筆者:春名幹男 2015年8月26日

 傑出したカリスマ性を持つトップの死は組織に大混乱をもたらす。よって当分の間、死を秘匿する、という策略は古今東西を問わずあり得る。日本でも、武田信玄の死後、家督を相続した勝頼が遺言を守って、葬儀をせず、信玄の死を覚(さと)られないよう工作した。
 それでは、アフガニスタンのイスラム教原理主義組織タリバン最高指導者ムハマド・オマル師の場合、2年以上前に死亡していた事実がなぜ突然発表されたのか。
 オマル師は、過去に何度も死亡説が流れたが、「生存説」の方がアフガン、米国、パキスタン各政府にとっても、タリバンにとっても都合が良かった、と8月7日付ニューヨーク・タイムズは伝えている。
 従って、パキスタンの情報機関、3軍統合情報部(ISI)も米中央情報局(CIA)も死亡説を徹底追及しなかったようだ。しかし、オマル師の死でアフガン和平に向けた政府とタリバンの交渉が無期延期となり、パキスタンも米国も困惑している。
 いや実は、両国以上に困り果てているのは中国だという知られざる事情が今、取り沙汰されている。

和平進展でタリバン内部に不満

「2015年の最初の7カ月間、アフガニスタンは和平に向けて前例のない動きを見せた」と米陸軍のシンクタンク、戦略研究所のカーター・マルカシアン研究員は米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」(電子版)への寄稿記事で記している。タリバンと政府側の間で一連の非公式接触が続けられたのを受けて、7月7日に公式協議が行われ、同31日には2回目の公式会合が行われる予定になっていた。
 その開催地は、パキスタンか中国になる可能性が高い、と伝えられていた。中国はそれほど、アフガン和平に深く関与していたのだ。
 世界は、和平協議に関する声明が「死人」から出されていることも分からず、和平協議の進展に期待感を高めていたのである。
 その矢先、29日にオマル師死去が世界に伝えられた。
 タリバン内の舞台裏については、米紙ウォールストリート・ジャーナルの記事が最も詳しい。2人の筆者のうちの1人、パキスタン・カラチ在住のサイド・ショアイブ・ハサン記者が、タリバン内部の動きを綿密に追っていた。
 実は、タリバン内部の批判勢力の間では、協議は本当にオマル師の指示を得て行われているのか、といった不満が高まっていたという。特に、この数カ月間はオマル師の生死に関する憶測が高まり、一部の幹部から「生きている証拠を出せ」といった要求も出されていた。アフガニスタン情報機関「国家治安総局」は幹部らの間でやりとりされた、そうした内容の書簡を入手していたという。

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執筆者プロフィール
春名幹男
春名幹男 1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。
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